実践に学ぶグローバルIT戦略(第2回)

スズキに学ぶ!インド新工場ネットワーク構築の実態

2018.03.28 Wed連載バックナンバー

 2026年には中国を抜き、世界で最も人口の多い国になると予想されているのがインドです。この国には多くの日系企業が進出先として熱い視線を送っていますが、一方で通信インフラの安定性においてはまだ課題もあるため、苦労しているケースが多いのも事実です。今回は35年前にインドに進出したスズキ株式会社(以下、スズキ)の寺澤正行氏に、2017年の新工場設立におけるネットワーク敷設の過程を伺いました。

 

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インドの通信インフラ事情をふまえてネットワークを構築する

 13億人を超える人口を抱え、1人当たり名目GDPも2014年の約1,607ドルから約1,852ドルへと着実に成長し続けているインド。この国の乗用車市場において、約5割という圧倒的なシェアを獲得し続けているのがマルチ・スズキ・インディア社(以下、マルチ・スズキ社)です。最初の大ヒットとなったのは1983年に生産を開始した「マルチ800」で、お求めやすい価格と品質の高さから多くの人たちに親しまれました。その後もマルチ・スズキ社の自動車はインド社会に広く浸透しています。

 さらにスズキでは、生産能力の増強を図るため、2014年3月に四輪車生産のための新会社であるスズキ・モーター・グジャラート社を設立、2017年にはインドのグジャラート州に建設した新工場で生産を開始しました。

 この新工場のネットワーク構築に携わったのがスズキ株式会社 ITシステム部情報基盤課の寺澤正行氏です。寺澤氏は20年前からインドでの事業に携わっており、当初の技術系データ授受のための国際線用回線の構築から現在に至るまで、さまざまな通信サービスの構築と支援に携わってきました。

 寺澤氏は「マルチ・スズキ社の工場はニューデリー近郊にありますが、最初に構築した20年前は毎週のように切れていました。現在でも公共工事等による誤切断など、1カ月に1回程度の頻度で切れることがあります。そのため、回線が1本では心もとないので、二重化して対処しています」と話しました。

 ちなみに一般的な日本の通信事業者であれば、稼働率が99.9%以上であるのは当たり前のことでしょうが、インドでは98%、場合によっては95%ということもあります。この数値からも、インドでは日本と異なる考え方でネットワークを構築せざるを得ないことがわかるのではないでしょうか。

 グジャラートの新工場は、既設のマルチ・スズキ社の工場とは異なり、スズキの100%子会社として建設されました。そのため寺澤氏は初期の段階から携わっていて、マルチ・スズキ社のスタッフと一緒になって現地ベンダーやサービスの選定に取り組みました。

「特にインフラ構築ベンダーの選定では、単純にコストだけでなく、技術力や将来性、組織体制といったものを総合的に評価し、その結果NTT Communications Indiaを選定するに至りました。選考に当たっては、経験豊富なマルチ・スズキ社のインド人スタッフと十分な協議を行いました」

 こうして新工場で利用するネットワークの敷設に向けた作業が始まりましたが、寺澤氏からは特に通信工事における日本との違いについて語られました。

「公共工事、あるいは通信事業者の工事であっても、施工ルールが明確になっていないケースがあるのです。どこの位置にどの業者がケーブルを埋めるのか、どのぐらいの深さで埋めるのかといった確認が不十分なまま工事が実施されてしまうこともあるため、誤ってほかの工事でケーブルを切ってしまうということが起こってしまいます」

 実際、工場の建設中に敷地内でケーブルが切断されるといった事象も発生したことから、対策として光ファイバーが1.2mの深さに埋まっていることを示す標柱を立てたりしましたが、それでもケーブルが切られてしまうことがあったようです。また掘削工事を実施する前に申告してもらい管理するといった取り組みも行われましたが、それにもかかわらずケーブルが切断されたこともあったそうです。

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インドでは資材の調達も重要なポイント

 もうひとつ、寺澤氏がインドにおける注意点として指摘したのは資材の調達の困難さです。

「LANケーブルやハブ、配線工事で必要な資機材などを扱う店が、都市部であるアーメダバードでも意外と少なく、日本と同じ材料をそろえることは困難でした。現地のパソコンショップを巡ってLANの資材を調達しようとしましたが、驚いたことにLANケーブルやハブが店頭にないのです!ですから、SIベンダーやローカルの施工業者がどれだけ材料のマーケット情報を持っているかは重要です」

 このような状況の中、グジャラート工場の建設においては、NTT Communications Indiaにマーケット調査を依頼して材料をそろえたり、施工に使う材料や施工方法をあらかじめ書面で取り決めたりして、施工時には仕様どおりに作業されていることをその都度確認することで品質の向上が図られました。

 寺澤氏が驚いたこととして紹介されたのが、電源ケーブルの処理です。皮膜で覆われた内部のケーブルを取り出し、手でよじってテープを巻いて結ぶといったことが普通に行われていました。その部分が緩み短絡したことで、ボヤも発生したことから、きちんと圧着端子を使うことをルール化したと言います。インドにおけるネットワーク敷設では、このように細かな部分もきちんとチェックすることが必要だと言えるでしょう。

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無線も組み合わせた回線の冗長化により安定した通信を確保

 インドにおいては、日本での工期管理感覚とは異なり予想外に工期がかかることも大きな問題のようです。寺澤氏は「インド特有のゆったりした時間の流れがある」と話しつつ、その要因として雨期の存在を挙げました。雨期になると、ものすごい大雨が毎日降り続き、屋外での作業がストップしてしまうのです。さらにスケジュールも思ったように進まないと続けます。

「さまざまな業者とすりあわせて工程を決めるのですが、机上でいくらきれいにスケジュール表を作ったとしても、なかなかそのとおりに進みません。対策はスケジュールに余裕をもたせるしかないということで、私たちは日本の3倍程度かかる想定で検討しました。たとえば百数十人ほどが入るメインの事務所では、LANの構築に6カ月程度を見込みました。工場内ラインのネットワークについては9カ月です。これで何とかぎりぎり工場の稼働に間に合わせました。構築フェーズに関しては工期を長く取っていくべきだと思います」

 なおグジャラート工場では、最終的にWAN回線では3つのキャリアを利用しています。その中の1回線は電力系の通信事業者で、特別高圧の受電のための電線に通信回線も含まれており、誤切断という点で非常に強い回線が使えているとしつつ、「しかし、それでも切れることがあるため、無線も組み合わせた3本の冗長構成とした通信回線を使って安定化を図っています」と述べました。

 最後に寺澤氏は、NTT Communications Indiaに依頼したのは好判断だったと言います。その理由として挙げたのが進捗および品質マネジメントで、「日系キャリアならではのマネジメントによって、工期遅れや品質の不ぞろいをカバーすることができました。インドの通信インフラは良くなりつつありますので、インドの慣習と上手に付き合っていくことが大切です」と締めくくりました。



【コラム】インドでのネットワークインフラ構築では何に注意すべきか

 インドには大小含めて30以上のキャリアがひしめき、価格競争が激化している状況です。その結果、2013年にはTulip Telecomというビジネス系通信事業者がサービスを停止、Reliance Communicationsという通信キャリアもモバイル通信事業の過当競争に巻き込まれ、サービスの一部売却・撤退の動きがあります。今回の新工場のネットワーク構築に携わったNTT Communications Indiaの岩川雄太氏は「品質面だけでなく、財務的な面も考慮して、慎重にキャリアを選定していく必要があります」と話します。

 

 

インドの通信キャリアの事情

 通信の安定性ですが、デリーやムンバイと行った地域では99.8%(1カ月に約86分間停止)程度の通信品質が確保されているとのことですが、地方では通信断から復旧までに丸1日や丸2日がかかることもあります。

通信品質(可用性)

 また通信停止の原因についてNTT Communications Indiaが調査した結果によれば、通信キャリアに依存した通信停止は34%で、実はユーザー側のオフィス環境に問題があるケースが66%もあったということです。その中でも特に大きな原因となっているのが停電です。岩川氏は「非常用発電装置、あるいは小型のバッテリーを導入するなどといった形で停電への対策が必要」だと指摘します。

通信停止の原因

 またアース不備による機器の故障など、ネットワーク機器のトラブルによる通信断も多いため、「ITインフラのデザインや機器の選定、構築作業を適切に進めることが重要になります」とアドバイスしました。

 NTTコミュニケーションズは、2015年にインドにおける通信ライセンスを取得し、インド進出日系企業で唯一、インド国内ネットワークサービスを提供しています。ネットワークサービスの品質向上を実現するとともに、NTT Communications Indiaによる一元対応によって、インドに拠点を展開する企業のICT環境をトータルにサポートしています。

NTT Communications Indiaのサービス

「NTT Communications Indiaには、100社以上にのぼる工場やオフィスの立ち上げ実績があります。その実績に裏打ちされた高品質なシステムインテグレーション力および運用サービスによって、お客さまのインドでのビジネスをサポートします」(岩川氏)

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Bizコンパス編集部

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