実践に学ぶグローバルIT戦略(第1回)

グローバルITガバナンス確立のために何をすべきか

2018.03.07 Wed連載バックナンバー

 海外拠点のIT環境について情報が上がってこない、あるいはグローバル全体の最適化プロジェクトを進めているが現地法人の反発が大きい。このようなグローバルITガバナンスにおける課題を解決するには、まず何から始めるべきでしょうか。この領域で多くの実績を持つ株式会社クニエのマネージングディレクターである赤神寿英氏に、グローバルITガバナンスの落とし穴や、取り組む際のポイントについて伺いました。

 

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ガバナンスが効かない2つの大きな要因

 海外拠点を含めたITガバナンスの構築は、多くの企業において重要な課題の1つとなっています。マネジメントやプロセスが各リージョンのIT部門によってバラバラであり、しかも本社側で各現地法人のIT環境を十分に把握できていないといったケースが少なくありません。どうして、このような状況に陥ってしまうのでしょうか。

 株式会社クニエのマネージングディレクターである赤神寿英氏は、このような状況を招いてしまう2つの要因を指摘しました。

「1つは本社側が遠慮して、よりサポートの立場に寄った形でマネジメントしてしまい、基本的にリージョンヘッドクォーターなどに任せてしまうケースです。悪い言い方で言えば“丸投げ”状態で、ガバナンスが効かなくなり、勝手にアプリケーションを導入されたり、大きなインシデントが発生したりする恐れがあります。2つ目として挙げられるのは、日本人スタッフの交渉力不足ですよね。トップダウンで強制するのではなく、向こうの商習慣を重んじ過ぎてしまうケースです。この場合、各リージョンのスタッフが勘違いしてしまい、最終的に主導権を握られてしまいます。こういった状況はよく見られますし、深刻な問題だと思っています」

日系グローバル企業における一般的なグローバルIT展開の状況

相手にとってのメリットを打ち出せているか

 このような問題を起こさないために、赤神氏が重要だと話すのはコミュニケーションの質です。もちろん、多くの企業において本社と各拠点のIT部門において、メールや電話でやり取りを行ったり、あるいは定期的にレポートを提出してもらったりといったことは行われているでしょう。しかし赤神氏は、それでは不十分だと言います。

「ガバナンスを効かせるためには、ガバナンスに取り組むことが各現地法人の人たちにとってどのようなメリットがあるのかを理解してもらうことが重要です。本社の言うことに従うことでどんなメリットが得られるのか。たとえば仕事が非常にスムーズに進むであったり、新しいキャリアパスが描けたりといった現地法人の担当者にとってのメリットを語るわけです。その上で、IT環境はこうあるべきある、それによって君たちにもこういうメリットがありますと伝えて進めていくことが近道になります」

 逆に、駄目なパターンとして赤神氏が説明したのは「本社でこういうふうに決まったから、それに従いなさい」とトップダウンでコントロールするやり方です。特に昨今では、日系企業においても海外の売上比率が高いといったことが珍しくありません。このような場合、日本の本社が決めたことだからと言われても、素直に従えないでしょう。

 さらに現地法人の担当者とメールや電話でやり取りしたり、あるいは定期的にレポートを提出してもらうといった活動だけでは不十分だとします。

「出張でも出向でも、それが難しければテレビ会議でもいいのですが、しっかり相手の顔を見ながらコミュニケーションを図らないと、お互い何を考えているのかを理解できないですよね。同じバックグラウンドを共有していればメールや電話でも意思疎通ができるかもしれませんが、現地法人はそうとは限りません。だから顔を見て話すことが大事なんです」

業務領域毎のグローバルITマネジメント
IT-BCM 全体傾向

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ITガバナンス確立に向けた施策に現地法人が反対する背景

 現地のIT環境を把握するために、アンケートなどを実施することもあるでしょう。こうしたサーベイも、やり方を間違えれば思うような成果は得られません。

「Excelで作成した質問票を渡して、これに記入してくださいと依頼するとします。それでは日本語を各国の言葉に翻訳したとき、言葉のニュアンスが変わってしまって何を書けばいいのかわからないということになりかねません。しかも自由記入欄がたくさんあって、『この業務のために、どのような工夫をしていますか』といった質問がある。現地の人は『適当にうまくやっている』などと書くわけです(笑)。そうやって集めた中途半端な情報を使って、ガバナンスを効かせるための方針やビジョンを作っても、現地の意向を反映しているとは言い難いので反発を受けるのです」

 ちなみにクニエでは、ユーザー企業からの依頼を受けてこのようなサーベイを実施する際は、できる限りチェックボックスにレ点を記入するようなアンケートを作成するのだと言います。こうすれば何をしているのか、何をしていないのかが明確となり、また現地法人にとっても答えやすい。さらに回答がシンプルなので、集計によって各国ごとの違いも浮き彫りにできるというわけです。

 このようなガバナンスを考える上で意識すべき点として、赤神氏が説明したのはBCM(Business Continuity Management)とセキュリティです。

 まずBCMについては「海外拠点のビジネスが何かしらの理由で止まってしまったときに、事業をどうやって再開させるのか、そういった視点がばっさり抜けているケースが見受けられる」と話し、グローバル展開においてBCMの視点を持って事業運営されているかどうかは大きなポイントになると説明しました。

業務領域毎のグローバルITマネジメント
IT-BCM 全体傾向

 一方セキュリティについては、現地法人に聞くとしっかり対策を行っていると言うが、実際に調査してみると十分な対策がなされていないことがあるとします。

「セキュリティ対策が不十分であれば、大きな事故につながる危険性があります。最も駄目な事例で言えば、アンケートで『ウイルス対策ソフトを導入し、きちんと更新を行っていますか』と聞くと、しっかりやっていると回答する。しかし現地にいって調査してみると、まったくやっていなかったということが多々あるのです。そこが組織にとっての大きなセキュリティホールになり、外部から攻撃を受けていまいます。実際、そうした不備によって十数億の被害を受けるといったことも起きています。そのため、相手を信じることも大切ですが、きちんと見える化をしていくことも検討しなければならないでしょう」

業務領域毎のグローバルITマネジメント
セキュリティ管理 全体傾向

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グローバルITガバナンスの確立に向けた最適解

 さて、海外展開時におけるITガバナンスのパターンはいくつかあります。初期段階では本社のIT部門がすべての拠点のITをコントロールする集権型が一般的でしょう。さらに規模が大きくなれば、リージョンヘッドクォーターがIT部門を持ち、その地域の現地拠点を統括する地域別連邦型などと呼ばれる形を採るケースが少なくありません。

グローバルITガバナンス強化策の最適解
海外展開におけるITガバナンスのパターン

 このようなガバナンスの形を考える上での前提として、意識しておきたいのは事業部門を巻き込むことです。

「ITガバナンスにフォーカスした話でも、必ずしも情報システム部門だけがITガバナンスを考えるのではなく、事業部門と一緒になって検討していくことが大切です。そうしないと、ITツールなどの道具だけの話になってしまいがちだからです。業務部門とIT部門が協力して検討する体制作り、あるいは見える化のための環境の構築を考えるべきです」

 その上で、グローバルにおけるITガバナンスの構築で最適解となるのは、PDCAサイクルを回しつつ、その時々に合った管理体制を選択することだと語りました。

「売上が低い時期は集権型で始めるのですが、徐々に規模が大きくなっていくと分権型や連邦型に推移していきます。その中で、日々PDCAサイクルを回していって、よりよいIT環境、あるいは業務環境を整えていく。それが、我々が申し上げたい最適解のポイントになります」

グローバルITガバナンス強化策の最適解
ITガバナンスのプロセス

 赤神氏は、NTTコミュニケーションズグループとともに、お客様の課題解決のためにグローバルICTパートナーとしての一助を担う役割を支援しています。

「海外進出の規模が拡大すれば、そのすべてを本社でコントロールすることは難しくなり、現地に権限を委譲することが欠かせなくなります。そのときに問題となるのがガバナンスで、そこに問題があれば事業継続やセキュリティ上の不安につながりかねないほか、必要な情報がすぐに参照できないなどビジネス上の問題にも発展しかねません。事業のグローバル化をさらに推し進めていくのであれば、できるだけ早いタイミングでガバナンスの構築に向けた施策に取り組めるよう、ご支援したいと考えています」

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Bizコンパス編集部

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