ビジネスが変わる!進化するクラウド活用術

気象衛星観測データをクラウド提供、ひまわりの挑戦

2017.11.01 Wed連載バックナンバー

 1977年の日本初の静止気象衛星「ひまわり」の打ち上げから、今年でちょうど40年。以来、ひまわりは世代交代しながら日本、アジア、西太平洋エリアの気象衛星観測を行い、世界中に気象衛星観測データの提供を行っています。現在稼働中の「ひまわり8号・9号」は、「ひまわり6号・7号」の後継機として設計された世界最先端の観測能力を有する静止気象衛星です(ちなみに2機編成となっているのはひまわり8号が観測運用衛星、ひまわり9号が待機衛星(バックアップ)を担う冗長構成になっており、平成34年ごろには、ひまわり9号を観測運用衛星として稼動させる計画です)。現在の「ひまわり8号・9号」では、地上回線での気象衛星観測データの提供において商用クラウドサービスを利用しているのをご存じでしょうか。

 

気になる見出しをクリック

撮影する気象衛星観測データが約50倍になり、衛星での配信が限界を迎える

 現在、2014年10月に打ち上げられた「ひまわり8号」が、日本および周辺国の主な気象衛星観測を担っています。実は「ひまわり7号」から「ひまわり8号」へ切り替わる際、気象庁は大きな決断を迫られていました。それは従来機(ひまわり7号)と後継機(ひまわり8号)では観測性能に格段の差があったためです。

 気象庁観測部気象衛星課の安藤昭芳氏は、当時の課題を振り返ります。

 「ひまわり7号に比べてひまわり8号は観測性能が大幅に向上し、画像の種類が約3倍、空間解像度が2倍、観測頻度も30分から日本周辺では2分30秒ごとになり、気象衛星観測データ量が約50倍に増大する計画でした。ひまわり7号までは衛星本体に観測データの配信機能を持たせていたのですが、同様の配信をひまわり8号で行うには大きな困難が予想されました」

ひまわり8号・9号の観測機能の向上

 そのため気象庁はひまわり8号へのデータ配信機能搭載を断念し、いったん気象庁のデータセンターに観測データを収容して、そこから衛星および地上回線を利用して各国をはじめ、ユーザーへ提供する併用構成を検討しました。

 そのプランに至る経緯について、安藤氏は語ります。

 「日本国内だけの提供ならば、地上回線のインターネットのみで対応できますが、ひまわりはアジア、西太平洋エリアを観測し、各国にデータを提供しています。中には十分な通信帯域の確保が困難な国や地域もあり、安定したデータ提供を行うには衛星と地上回線による併用構成が必要なのです。これまでのように独自システムを構築し、自前で運用するのはコスト面や稼働面でも不可能と判断し、衛星と地上回線による気象衛星観測データの提供業務を外部委託することを決断しました」

 しかも、地上回線については商用クラウドを活用したインターネット経由の提供を想定しており、気象庁にとって、これほどの大容量データを提供するのは初めての取り組みだったのです。

途切れないデータ提供を重視、衛星・地上回線の一元提供が可能に

 気象衛星観測データの提供業務の外部委託を決断した気象庁は、仕様の検討に取り掛かります。重視したポイントを安藤氏は「ひまわりからの気象衛星観測データは気象防災で重要な役割を担うため、たとえ災害時であっても確実に提供できる安定性や信頼性を最も重視しました。また、衛星からのデータを受信するユーザー側の設備投資が大きくならないことも条件の1つでした」と説明します。こうした条件を満たすパートナーとして受託したのが、NTTコミュニケーションズでした。

 調達過程においては、NTTコミュニケーションズと商用衛星事業者のスカパーJSATの協業による、互いの得意分野を最大限に生かした提案により衛星回線ルートを受託しました。さらにその提案・構築経験を活かして次に受託した地上回線ルートによって、NTTコミュニケーションズが気象庁内で編集された気象衛星観測データを受け取り、商用衛星ルート「HimawariCast」および地上回線ルート「HimawariCloud」により提供するというワンストップ提供も可能になりました。ちなみに地上回線ルートの気象衛星観測データはNTTコミュニケーションズのクラウド基盤「Enterprise Cloud」に収容され、インターネット経由で海外、学術情報ネットワーク経由で国内の大学、研究機関に提供される構成になっています。

ひまわり8号・9号のデータ提供構成

 気象庁は、NTTコミュニケーションズをパートナーに、新たな気象衛星観測データの提供基盤の構築に着手しますが、試験稼働までに残された時間は実質3カ月しかありませんでした。構築に携わった気象庁 気象衛星センター情報伝送部施設管理課の松田謙氏は、当時の苦労を語ります。

 「正直、本当に定めた提供開始日に間に合うのかという不安はありました。しかし、NTTコミュニケーションズと緊密な打ち合わせを重ねて、進捗を把握しながら進められたので大変助かりました。おかげで実質3カ月というタイトな納期通りに試験稼働させることができました」

 クラウド基盤を用いた構成であることが、短納期に対応できた一因といえるでしょう。

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

商用クラウド活用に成功!今後は気象データを利活用する試みも

 試験稼働を開始したひまわり8号・9号の気象衛星観測データの提供基盤が、安定運用に至るには少々時間を要したといいます。なぜなら地上回線に商用クラウドを用いた取り組みであるため、気象庁にもNTTコミュニケーションズにも前例のない取り組みとなったためです。旧気象衛星データ配信基盤との並行運用を行っていたため、気象庁の提供業務への大きな影響はありませんでしたが、稼働直後はしばしば想定外のトラブルが起こったといいます。

 松田氏は稼働後の取り組みを「短期間での構築に加え、ここまでデータ量、ファイルの数が膨大なデータ提供は初の試みだったため、不具合を1つずつ潰しながら安定性を高める試行錯誤の連続でした。現在は、想定通りに安定した大容量データの提供が実現できています」と語ります。

 こうして不具合を1つずつ潰し、クラウド基盤の安定稼動を確保したことで、地上回線に商用クラウドを活用した試みは成功。このニュースは世界中の気象機関で話題になりました。現在、HimawariCloudでは22カ国、29機関に向けてインターネット経由でリアルタイムな気象衛星観測データ提供を行っており、NTTコミュニケーションズの運営する国内最大級のグローバルIPバックボーン上でCDNを利用することで、各国の気象局ユーザー等への気象衛星観測データ提供業務は安定しているといいます。

国際防災に貢献する静止気象衛星「ひまわり」

 「欧米の気象機関でも相次いでクラウドを活用する取り組みが進んでいます。なお、ひまわり8号・9号では従来の約50倍の気象衛星観測データを提供できるようになったため、より詳細な気象状況が把握できるようになりました。気象庁ではゲリラ豪雨との言葉を使っていませんが、一般に“ゲリラ豪雨”と呼ばれるような急な強い雨でも、高頻度の気象衛星観測を利用すると、雨が降り出す前に雲が発達しつつあることを捉えることができます。ひまわりの高性能な気象衛星観測データを活用することで、急な強い雨が予測可能になっていくことを期待しています」と安藤氏が明かすように、現在は台風、豪雨といった天気予報の精度向上はもちろん、気候変動の監視・予測による国際防災、船舶・航空機の安全運航、太陽光発電の活用推進など、幅広い用途で気象衛星観測データが活用されています。

 安藤氏が「将来的には民間企業も含めて気象衛星観測データの活用領域を拡大していきたい」と展望を語るように、すでに気象庁では「気象ビジネス推進コンソーシアム」を立ち上げています。これはIoTやAI技術を駆使して気象データの利活用を推進し、気象データを高度利用したビジネスを創出・活性化する取り組みです。

「気象ビジネス推進コンソーシアム」活動内容

 同コンソーシアムでは広く民間企業の参加を募っていますので、興味のある方は一度問い合わせてみてはいかがでしょう。気象データに、ビジネス創出のヒントが眠っているかもしれません。

【コラム】地上から見える雲を宇宙からも見てみませんか

 いきなり、ひまわりの気象衛星観測データでビジネス創出といっても、それこそ雲をつかむような話かもしれません。そこで、まずは気軽に気象衛星観測データに触れてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

 「ひまわりの気象衛星観測データは気象庁ホームページで公開していますので、パソコンやスマホから手軽にご覧いただけます。見上げた空にきれいな雲、不思議な雲を見つけたら、ぜひその雲をひまわりの気象衛星画像と比べてみてください。日本近辺の気象衛星観測データは2分30秒毎に更新されますので、ほぼリアルタイムで宇宙からの雲の様子を見ることができます。自分の目で見た空の雲と気象衛星画像とを見比べるとおもしろいですよ」(安藤氏)

※掲載されている内容は公開日時点のものです。
※掲載されているサービスの名称、内容及び条件は、改善などのために予告なく変更することがあります。

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

このテーマについてもっと詳しく知りたい

Bizコンパス編集部

Bizコンパス編集部

このページの先頭へ
Bizコンパス公式Facebook Bizコンパス公式Twitter