SaaS型クラウドERPを実装する際の課題の多くはインフォアジャパンとして解決できたものの、最大の難所はERPやクラウドではなく閉域接続にあったと矢島氏は語ります。
「日本のお客さまの多くがクラウドサービスを利用する際に、セキュリティポリシーの観点などからインターネット接続ではなくVPNなどの閉域接続を望まれます。確かにAWSが提供する専用線サービスであるAWS Direct Connectを使えば解決できるのですが、それは単体のクラウドをつなぐ場合です。複数のERPを運用するマルチクラウドをうまく連携させ、稼働させるには高い技術力が必要になります」
実はオンプレミスとマルチクラウドでは、ネットワークの意味合いが根本的に変わってきてしまうのです。複数のERPをつなぐこと自体は難しいことではありませんが、そこで十分なネットワークのパフォーマンスを発揮できるかは別問題だとシソン氏は指摘します。
「もちろん、理論的にはつながるのですが、実際に試してみると思うような速度が出ないことがあります。改善するにはホップ数を抑える、いわゆる適正なルートを通って最短距離でデータをやりとりさせるなどの複雑かつ高度な対策が必要になります。遅延の問題に直面し、対処にお手上げのお客さまも少なくありません」
そこでインフォアジャパンでは、マルチクラウドの遅延問題を解消してERPや工場間でリアルタイムな閉域接続を実現させるパートナーとしてNTTコミュニケーションズを選定、両社の協業によるCSIMの提供を開始しています。選定の決め手となったのは「Arcstar Universal One Multi-Cloud Connect」です。このサービスはNTTコミュニケーションズのクラウドサービスに加えて、AWS、「Microsoft Azure」「Oracle Cloud」など各社のクラウド基盤を熟知したプロが、閉域接続でのマルチクラウド環境の導入検討や実装、運用までトータルサポートすることが最大の強みになっています。さらにネットワークキャリアとしてのグローバルエリアカバレッジや、クラウドに上げられない一部システムを収容できるデータセンターの提供なども併せて一元提供できる点も評価のポイントでした。
シソン氏は、協業によってユーザに生まれるメリットについて語ります。
「いくら高スペックのERPでも、ネットワークが遅延しては意味がありません。究極の目標は日本、アメリカ、ヨーロッパのどこにいても、一切場所を意識せず同じ感覚で快適に利用できる閉域接続です。これが実現できればビジネスの変化に合わせて、ロケーション気にすることなく工場や販売拠点を自由自在に動かせるようになります。これは協業のメリットとしてかなり大きいと感じています」