ビジネススピードを加速するIT基盤(第16回)

インフォアジャパンが示すERPクラウド化のカギとは

2018.06.29 Fri連載バックナンバー

 いま、多くの企業が事業の根幹となる基幹系システムをクラウド環境に移行する取り組みを進めています。とりわけグローバルエリアで事業を展開することが多い製造業では、この傾向が顕著に表れているようです。オンプレミスからクラウドへ移行する要因や、移行により得られるメリット、移行時に押さえておきたいポイントなどについて、製造業に特化したSaaS型クラウドERPを提供する国内大手ベンダー、インフォアジャパン株式会社にお話を伺いました。

【インフォアジャパン株式会社について】

 インフォアは、世界中に90,000社を超える顧客を持つ、エンタープライズソフトウェアプロバイダーであり、戦略的なテクノロジーパートナーです。インフォアが提供するソフトウェアは、あらゆる生産形態や業界によって異なる商習慣や業務要件に特化した機能をあらかじめ組み込んだソリューションを提供することで、人、モノ、金およびネットワーク間の進歩をサポートします。インフォアジャパン株式会社は、インフォアの日本法人として、各種エンタープライズ・ソリューションの販売、導入、コンサルティングを行っています。

 

気になる見出しをクリック

なぜERPはオンプレミスのままではダメなのか

 はじめに、多くの製造業がオンプレミスからクラウドに基幹系システムをシフトする要因としては、「従来のオンプレミスのERPでは現代のビジネスのスピードについていけない点にある」とインフォアジャパン株式会社(以下、インフォアジャパン)のシソン セザール氏は分析します。

「新たな市場開拓が求められる中で、多くのお客さまがビジネスに対するスピード感を重視されています。これからは伸び悩む市場を縮小し、新たな市場に打って出るといったビジネスの変化に迅速に対応できるフレキシビリティやスケーラビリティがERPに求められているのです」

 確かに、オンプレミスなら物理的な工事などで数カ月を要したIT基盤構築などが、クラウドであれば劇的に短縮できます。さらにはクラウドサービスの進化により信頼性やセキュリティといった面での不安が払拭されつつあり、導入のハードルを下げていることも追い風になっているようです。

 さらにシソン氏は、2つめの理由として「グローバルシングルインスタンス(GSI)の限界」を挙げます。

「かつてはグローバルエリアで1つの基幹系システムを共通のルールで使用するGSIは一般的でしたが、オンプレミスの場合はアップグレードの際に数日間システムをダウンさせる必要があります。世界共通の休日は1月1日しかなく、全拠点のビジネスを止めずにアップグレードを行うのは至難の業です。しかも、メイン、バックアップ、アップグレード用のシステムを持つとなると膨大なオーバーヘッドコストがかかってしまいます」

 今後、ビジネスの変化に合わせて基幹系システムをアップグレードする頻度が増えることを想定した場合、従来のオンプレミスにあるERPはあまりにも鈍重で、費用もかさんでしまうのです。

 さらに追い打ちかけるように、2018年5月より「GDPR(EU一般データ保護規則)」が施行されます。これはEU域内の個人データをEU域外に持ち出すことを制限する法律で、すべてのEU加盟国に適用されます。こうなると本社がすべての統制を行う中央集権型のGSIは成立しなくなります。そのため現在のトレンドは本社で統制しつつ、地域ごとに個別に基幹系システムを立てる連邦型が主流になりつつあるとシソン氏は指摘します。

「日本はもとより、北米や欧州などで個別にERPを運用する必要が出てくるため、必然的に複数のサービスを利用するマルチクラウドへの対応は避けては通れなくなっています」

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

マルチクラウドにおけるERP実装の留意点

 グローバルエリアで事業を展開する製造業の顧客からの要望を受けて、インフォアではいち早くSaaS型クラウドERPソリューションを世に送り出してきました。昨年、日本国内でも大規模組み立て製造業向けSaaS ERP「Infor CloudSuite Industrial Machinery」(以下、CSIM)の提供を開始しています。これは産業用機械や大型設備機器、電子機器といった製造業向けのクラウドアプリケーションとしてパッケージ化されたものです。財務管理、サプライチェーン、生産管理、品質管理といった製造業で必要な機能で構成され、ERPが地域ごとにサイロ化しないようマルチサイトにも対応しています。

 オンプレミスからクラウドへの移行にあたり、課題の1つとなるカスタマイズにも配慮したパッケージになっていると同社の矢島孝安氏は説明します。

「従来のオンプレミスでは自由にカスタマイズして自社センターで運用できたのですが、クラウドではカスタマイズできる範囲に制限があります。そこで、あらかじめお客さまの業種・業態に特化したさまざまな機能を搭載することでノンカスタマイズでも十分にお使いいただける製品に仕立てています。さらに、併せて移行やバージョンアップにおいても支障がない専用カスタマイズツールを提供していますので、安心してご利用いただけます」

 クラウドへの移行にあたり、安全性も重要なポイントです。CSIMは、AWS(Amazon Web Service)上で初期投資を大幅に削減できるサブスクリプションモデルで提供されます。シソン氏はAWS選定の理由を次のように説明します。

「多くの機密情報を扱う製造業のお客さまは、まずデータの安全性を気にされます。そこで高い信頼性が担保できることを前提として、カスタマイズの自由度が高いシングルテナントであるAWSを選びました。もちろん、臨機応変に必要な部分にリソースを割り振れるフレキシビリティかつスケーラビリティの高いオペレーションができる点も評価しています」

 そしてシソン氏は、マルチクラウド形態における、クラウド型ERPの実装にあたって留意点を次のように説明しました。

「実はクラウドサービスのレイヤーで重要になるのがネットワークです。世界各地に地域に分散するマルチクラウドを閉域接続するには高度な専門技術が必要になるため、その領域を補ってくれるパートナーを探す必要があったのです」

【コラム】インフォアの事業戦略

 インフォアでは「ウエディングケーキ」というユニークな事業戦略を掲げており、この戦略に沿ってCSIMは開発されています。これは5階層のレイヤーで構成され、下から2番目に「クラウドサービス」が位置します。ここにSaaS型クラウドERP導入の明暗を合分ける最大のポイントがあるとシソン氏は明かします。

インフォアの事業戦略「ウエディングケーキ

 インフォアの強みである「業界特化アプリケーション」を土台に、AWSとの協業による「クラウドサービス」、社内外のプロセスをシームレスに追跡できる「ビジネスネットワーク」、プロセスの改善を推進する「データサイエンス」、そして製造の自動化、効率化に向けたAIによる「新しい価値」で構成されている。CSIMを導入することで、このウエディングケーキのすべてソリューションが利用できる。

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

複雑化する『閉域接続』対策が成功のカギ

 SaaS型クラウドERPを実装する際の課題の多くはインフォアジャパンとして解決できたものの、最大の難所はERPやクラウドではなく閉域接続にあったと矢島氏は語ります。

「日本のお客さまの多くがクラウドサービスを利用する際に、セキュリティポリシーの観点などからインターネット接続ではなくVPNなどの閉域接続を望まれます。確かにAWSが提供する専用線サービスであるAWS Direct Connectを使えば解決できるのですが、それは単体のクラウドをつなぐ場合です。複数のERPを運用するマルチクラウドをうまく連携させ、稼働させるには高い技術力が必要になります」

 実はオンプレミスとマルチクラウドでは、ネットワークの意味合いが根本的に変わってきてしまうのです。複数のERPをつなぐこと自体は難しいことではありませんが、そこで十分なネットワークのパフォーマンスを発揮できるかは別問題だとシソン氏は指摘します。

「もちろん、理論的にはつながるのですが、実際に試してみると思うような速度が出ないことがあります。改善するにはホップ数を抑える、いわゆる適正なルートを通って最短距離でデータをやりとりさせるなどの複雑かつ高度な対策が必要になります。遅延の問題に直面し、対処にお手上げのお客さまも少なくありません」

 そこでインフォアジャパンでは、マルチクラウドの遅延問題を解消してERPや工場間でリアルタイムな閉域接続を実現させるパートナーとしてNTTコミュニケーションズを選定、両社の協業によるCSIMの提供を開始しています。選定の決め手となったのは「Arcstar Universal One Multi-Cloud Connect」です。このサービスはNTTコミュニケーションズのクラウドサービスに加えて、AWS、「Microsoft Azure」「Oracle Cloud」など各社のクラウド基盤を熟知したプロが、閉域接続でのマルチクラウド環境の導入検討や実装、運用までトータルサポートすることが最大の強みになっています。さらにネットワークキャリアとしてのグローバルエリアカバレッジや、クラウドに上げられない一部システムを収容できるデータセンターの提供なども併せて一元提供できる点も評価のポイントでした。

 シソン氏は、協業によってユーザに生まれるメリットについて語ります。

「いくら高スペックのERPでも、ネットワークが遅延しては意味がありません。究極の目標は日本、アメリカ、ヨーロッパのどこにいても、一切場所を意識せず同じ感覚で快適に利用できる閉域接続です。これが実現できればビジネスの変化に合わせて、ロケーション気にすることなく工場や販売拠点を自由自在に動かせるようになります。これは協業のメリットとしてかなり大きいと感じています」

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

原則、ERPの運用はアウトソースで考える

 現在、日本企業の多くがIT部門の人材不足という慢性的な課題を抱えています。とりわけERP、基幹系システムの人材難は、かなり深刻だとシソン氏は語ります。

「オンプレミスのERPを導入したIT部門の担当者が高齢化しており、軒並み定年を間近に控えた状況にあります。経営者は若い人材をバックオフィス業務に回すより、もっとビジネス改革に直結する業務に配置したいと考えます。こうした流れからERPの運用をアウトソースするお客さまが増えています」

 矢島氏は、ERPシステムの運用をアウトソースができる点もCSIMのポイントの1つだと説明します。

「当社には、クラウドオペレーションを担当する専任のプロがいます。クラウドの領域をお貸しするだけではなく、ITILに準拠したオペレーションのもとで最適なパフォーマンスの確保やデータ容量の増減、CPUパワーの強化などが提供できることもCSIMの強みです」

 今回の協業によりアウトソースの領域が拡大できたことは大きな収穫だったとシソン氏は振り返ります。

「ERPだけではなく、ネットワークの領域までをアウトソースしてはどうですかとご提案しています。システムのトラブルのみならず、万一、ネットワークが落ちてもきちんと対応してもらえる安心感は、お客さまにとっても大きな魅力になるでしょう」

 現在、日本国内ではグローバルエリアに事業を展開する複数の大手製造業でCSIMの導入が進んでいます。実稼働すれば、SaaS型クラウドERPによるマルチクラウド接続のモデルケースとして話題になるのではないでしょうか。繰り返しになりますが、マルチクラウドの実現ではERP、クラウド、ネットワークの3点を抑えた構築が重要になります。そこをトータルにカバーできる、オペレーションまで託せるパートナー選びこそが成功の指標となるかもしれません。

※掲載されている内容は公開日時点のものです。
※掲載されているサービスの名称、内容及び条件は、改善などのために予告なく変更することがあります。

ご覧いただくにはログインが必要です。

新規会員登録(無料)はこちら

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

このテーマについてもっと詳しく知りたい

Bizコンパス編集部

Bizコンパス編集部

このページの先頭へ
Bizコンパス公式Facebook Bizコンパス公式Twitter