いま、多くの企業が事業の根幹となる基幹系システムをクラウド環境に移行する取り組みを進めています。とりわけグローバルエリアで事業を展開することが多い製造業では、この傾向が顕著に表れているようです。オンプレミスからクラウドへ移行する要因や、移行により得られるメリット、移行時に押さえておきたいポイントなどについて、製造業に特化したSaaS型クラウドERPを提供する国内大手ベンダー、インフォアジャパン株式会社にお話を伺いました。
【インフォアジャパン株式会社について】
インフォアは、世界中に90,000社を超える顧客を持つ、エンタープライズソフトウェアプロバイダーであり、戦略的なテクノロジーパートナーです。インフォアが提供するソフトウェアは、あらゆる生産形態や業界によって異なる商習慣や業務要件に特化した機能をあらかじめ組み込んだソリューションを提供することで、人、モノ、金およびネットワーク間の進歩をサポートします。インフォアジャパン株式会社は、インフォアの日本法人として、各種エンタープライズ・ソリューションの販売、導入、コンサルティングを行っています。
なぜERPはオンプレミスのままではダメなのか
はじめに、多くの製造業がオンプレミスからクラウドに基幹系システムをシフトする要因としては、「従来のオンプレミスのERPでは現代のビジネスのスピードについていけない点にある」とインフォアジャパン株式会社(以下、インフォアジャパン)のシソン セザール氏は分析します。
「新たな市場開拓が求められる中で、多くのお客さまがビジネスに対するスピード感を重視されています。これからは伸び悩む市場を縮小し、新たな市場に打って出るといったビジネスの変化に迅速に対応できるフレキシビリティやスケーラビリティがERPに求められているのです」
確かに、オンプレミスなら物理的な工事などで数カ月を要したIT基盤構築などが、クラウドであれば劇的に短縮できます。さらにはクラウドサービスの進化により信頼性やセキュリティといった面での不安が払拭されつつあり、導入のハードルを下げていることも追い風になっているようです。
さらにシソン氏は、2つめの理由として「グローバルシングルインスタンス(GSI)の限界」を挙げます。
「かつてはグローバルエリアで1つの基幹系システムを共通のルールで使用するGSIは一般的でしたが、オンプレミスの場合はアップグレードの際に数日間システムをダウンさせる必要があります。世界共通の休日は1月1日しかなく、全拠点のビジネスを止めずにアップグレードを行うのは至難の業です。しかも、メイン、バックアップ、アップグレード用のシステムを持つとなると膨大なオーバーヘッドコストがかかってしまいます」
今後、ビジネスの変化に合わせて基幹系システムをアップグレードする頻度が増えることを想定した場合、従来のオンプレミスにあるERPはあまりにも鈍重で、費用もかさんでしまうのです。
さらに追い打ちかけるように、2018年5月より「GDPR(EU一般データ保護規則)」が施行されます。これはEU域内の個人データをEU域外に持ち出すことを制限する法律で、すべてのEU加盟国に適用されます。こうなると本社がすべての統制を行う中央集権型のGSIは成立しなくなります。そのため現在のトレンドは本社で統制しつつ、地域ごとに個別に基幹系システムを立てる連邦型が主流になりつつあるとシソン氏は指摘します。
「日本はもとより、北米や欧州などで個別にERPを運用する必要が出てくるため、必然的に複数のサービスを利用するマルチクラウドへの対応は避けては通れなくなっています」