ビジネススピードを加速するIT基盤(第13回)

新機軸のプライベートクラウド「Azure Stack」とは

2018.03.09 Fri連載バックナンバー

 これまで主にオンプレミスからの“移行先”として利用されてきたクラウドですが、昨今PaaSやSaaSが急速に進化したことで、その優れた機能をオンプレミスなどのプライベートな環境でも活用したいというニーズが生まれています。これはクラウドを“場所”ではなく“モデル”として捉え、それを活用することでプライベート環境においてもシームレスで効率的なアプリケーションの開発や運用を可能にするという考え方です。それを実現するソリューションとして、マイクロソフトは「Microsoft Azure Stack」を提示しています。本記事では、Microsoft Azure Stackの特長について解説しつつ、ハードウェアやインフラに求められる要件についても解説していきます。

 

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クラウドの利便性をオンプレミスでも

 企業におけるクラウド活用の事例において、これまで中心的な存在となっていたのは、CPUやメモリ、ストレージといったサーバーリソースをサービスとして提供するIaaSです。たとえば既存システムをクラウドに移行するといった場面で、IaaSで提供されている仮想サーバーを利用し、その上に既存システムのOSから上のレイヤーを載せ替えるといったケースです。

 しかし最近では、アプリケーションの実行環境をサービス化したPaaS、あるいはアプリケーションそのものを提供するSaaSが急速に進化し、アプリケーションの開発スタイルや利用形態が大きく変わりつつあります。PaaSを利用すれば、サーバーのセットアップやOS・ミドルウェアのインストールなどを行わず、根幹となるアプリケーションの開発に集中できます。すでに自社の求めるアプリケーションがSaaSとして提供されているのであれば、そもそも開発すら必要ありません。

 このように、クラウドの世界において新たな開発モデルやアプリケーションの利用形態が生まれているのであれば、それをオンプレミスなどのプライベート環境で使いたいというニーズが生まれるのは当然でしょう。業種や業態、扱うデータによってはインターネット上で利用者が共用するパブリッククラウドが使えないほか、レイテンシーや接続環境の問題からWANを介さずにシステムを使いたいといったケースもあるためです。

 このようなニーズを満たすために、マイクロソフトがリリースする新たなソリューションが「Microsoft Azure Stack」です。これはパブリックなクラウドである「Microsoft Azure」で実現されているクラウドモデルをプライベートなICT環境で利用するためのものであり、パブリッククラウドを使わずにクラウドならではのアプリケーションの開発と利用を可能にします。

Microsoft Azure Stackが提供する価値

 日本マイクロソフトの高添修氏は、AzureとAzure Stackの関係性について「両者のコントロールパネルの画面は同じです。Azure StackはAzureありきででき上がったものであり、まったく新しいものを別途作っているわけではありません」と話し、次のように続けました。

「Azureは『Azure Resource Manager』という管理基盤が支えていて、その上でポータルやスクリプト、開発環境やAPIが成り立っています。実はAzure Stackは、この管理基盤そのものをオンプレミスに持ってくるソリューションです。そのため、利用できるAPIやコマンド、スクリプトが一緒ですし、世界中の誰かがAzure上で実行したノウハウを社内に持ち込むこともできるのです。そこまで徹底していることがAzure Stackのユニークな点です」

 AzureとAzure Stackの関係性を端的に表しているのは「Write Once,Deploy Anywhere」という言葉です。つまり1度アプリケーションのコードを書けば、それをパブリッククラウドとプライベートクラウドのどちらでも動かせるというわけです。

「たとえば、アプリケーション開発環境であるVisual Studioを使ってコードを作成したとします。実データを伴わない段階のテストは、パブリッククラウドで実施し、実データを投入する本番稼働ではプライベートな環境を利用したい。このようなケースにおいて、AzureとAzure Stackであれば、パブリッククラウドとプライベートクラウドでコードを書き分けることなく、単にアプリケーションの展開先を切り替えるだけでどちらでも実行可能です。そのようなことが、普通にできるようになっています」

 現在、ハイブリッドクラウドでITインフラを再構成する動きは、グローバル全体で進んでいます。ただしオンプレミスはそのまま残り、さらにパブリッククラウドで複数のサービスを使い分ける必要があるといった状況では、ITインフラのコスト最適化は進まず、さらに運用の複雑化も招きかねません。高添氏はこうした課題に先回りしたのがAzure Stackだと説明します。

「バラバラなツール、バラバラなスキル、そしてアプリケーションの設計も環境によって異なる。こういったものをクラウドネイティブな世界観で統一する、それがAzureとAzure Stackです。この新たなソリューションを視野に入れて、これからのハイブリッドクラウドモデルを考えていただきたいと思います」

Azure Stackの柔軟な活用を実現するハードウェアの姿

 このAzure Stackをハードウェアに組み込み、アプライアンスとして提供するベンダーがヒューレット・パッカード・エンタープライズです。日本ヒューレット・パッカードの辻村洋太郎氏は「マイクロソフトとヒューレット・パッカードは30年来のパートナーシップがあり、2年ほど前には両社のCEOが共同でさらに強固なパートナーシップを締結すると宣言しました。その関係性の中でリリースしたのがAzure Stackを搭載したアプライアンス製品です」と述べました。

 この製品は「HPE ProLiant for Microsoft Azure Stack」と呼ばれるもので、最小構成では4台のコンピュートノードと1台のライフサイクル管理サーバー、そして3台のネットワークスイッチで構成されます。

 コンピュートノードで使われるサーバーは世界シェアナンバーワンの製品であるHPE ProLiant DL 380で、さらにユーザーの要望に応じてCPUの種類やメモリやストレージ容量を柔軟にカスタマイズすることが可能です。辻村氏は「ワークロードの内容によって、CPUの負荷が高い、あるいはメモリの消費量が大きいなど、サーバーに求められる要件は異なります。しかし私たちの製品であれば、ワークロードの内容によって細かくカスタマイズし、無駄なく構成できることは大きなポイント」だと話しました。さらにコンピュートノードのサーバー台数も最小4台から1台単位で選択することが可能であり、これもHPEならではのメリットだとします。

 辻村氏がAzure Stack活用における成功の鍵として話したのは、インフラの構築です。

「導入したAzure Stackをどのように運用するのか。たとえば既存のオンプレミスのサーバーとどうやって接続するのか。あるいはパブリッククラウドのAzureとプライベートクラウドのAzure Stackをどう連携させるのかなど、考えるべきポイントはいくつもあります。そういった課題について、ネットワークやデータセンターに強みを持つベンダーに相談し、一緒にプロジェクトを進めるというのが成功のポイントとなるのではないでしょうか」

グローバル全体最適の視点で考えるAzure Stackに最適なインフラ

 AzureおよびAzure Stackを活用し、企業インフラとして最適な、新たなハイブリッドクラウド環境を構築することを考えるとき、Azure Stackに適した品質と運用を確保できるデータセンターの選択はもちろん、パブリックに提供されるAzureとデータセンターに設置したAzure Stackとを、いかにスムーズに連携させるかがひとつのポイントとなってきます。データセンターとデータセンター、あるいはデータセンターとパブリックなクラウドを柔軟に接続する仕組みが重要になってくるわけです。

 このような課題について、「Nexcenter」と「SD-Exchange」という解決策を提示したのは、NTTコミュニケーションズの井上雅夫氏です。

 Nexcenterは同社が提供するデータセンターの高品質ブランドであり、SD-Exchangeはそこで提供されるネットワークサービスです。ソフトウェア技術を使ってネットワークをコントロールするSDNの技術を応用し、コロケーションやさまざまなクラウドサービスへの柔軟な接続を可能にするというもので、パブリックに提供されているAzureへの接続サービスの開発も進められています。つまりこれを利用すれば、AzureとAzure Stackを設置したデータセンターとの間を閉域ネットワークで結び、管理ソフトウェアやコーディングによる自動連携で自由にパブリックとプライベートの両空間を行き来するといったことが可能になります。Azure Stackでシステムを動かしつつ、そのレプリケーション先としてパブリッククラウドのAzureを利用するといったことも実現するわけです。

 企業インフラの最適化を行う場合、グローバル全体での統合も視野に入ってくるでしょう。グローバル全体でのインフラの一元化が可能となれば、ガバナンスの強化やコスト最適化に大きく近づくことになります。Azure Stackを活用すれば個々の拠点ごとにプライベートクラウド環境を構築し、さらにAzureと統合するといったことは可能です。とはいえAzure Stackの設置場所として拠点ごとに品質やAzureとの接続方法が異なるデータセンターを利用すれば、ネットワークの複雑化を招く可能性があるほか、運用レベルの統一を図ることも難しくなるでしょう。これに対して井上氏は、NexcenterとSD-Exchangeはグローバル環境で活用できるサービスだとした上で、Azure Stack環境をグローバルに展開、統合していくフェーズにおけるインフラ選択のポイントについても指摘します。

「NTTコミュニケーションズでは、グローバルで140以上のデータセンターを『Nexcenter』のブランド名で展開しています。アメリカやヨーロッパ、東南アジア各国、さらにインドや中国、オーストラリア、日本の主要都市へ展開しており、これらのデータセンターにおいてSD-Exchangeサービスを提供しています。つまり、どの地域にAzure Stackを設置した場合でも、Azure Stack同士、あるいはAzure StackとAzureとの間をSD-Exchangeで効率的に連携させることができます。さらにNexcenterはグローバル統一の設備基準とサービス運用基準を定めているため、これを利用していただくことでグローバルのどこででも最適な形でAzure Stackを運用していただくことが可能です」

 NTTコミュニケーションズでは、SD-Exchangeに加え、VPNサービスである「Arcstar Universal One」の「Multi-Cloud Connect」オプションにおいても、閉域網経由でのAzure接続を提供しています。このように多様なサービスを必要に応じて使い分けられるのは、グローバル全体でのAzure Stack活用を考える上で大きなメリットとなります。

 また同社は、Azure Stackを運用するためのインフラを提供するにとどまらず、Azure Stackのマネージドサービスの提供も予定しています。これはヒューレット・パッカード・エンタープライズのアプライアンス製品を用いたものであり、すでに金融機関をはじめとしたいくつかの企業とPoCを進めていると井上氏は説明します。Azure Stackの活用を検討する上で、こちらも興味深いサービスとなるでしょう。

 プライベートクラウドとパブリッククラウドの双方を活用したこれからのITインフラを考える上で、Azure Stackがもたらす価値は極めて大きいのは間違いないでしょう。ただし、それを積極的に活用するのであれば、Azureとの接続から運用やセキュリティまで含めて、トータルでITインフラを見直す必要があります。導入に際しては、こういった点も相談できるベンダーをパートナーに選ぶことが重要ではないでしょうか。

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