新型コロナウイルス感染症との攻防が長期化するなか、対面・接触を伴う事業やサービスが苦境に立たされています。2021年1月には2回目の緊急事態宣言が発令され、人と人との接触機会を減らす必要性が改めて強調される中、デジタル技術を活用した遠隔コミュニケーションは事業継続の観点でますます重要となっています。
前回の記事で、消費者にとってデジタルは、コロナ禍を経て、既に“緊急時の代替手段”ではなく、“目的や場面に応じて使い分けるもの”になっていることを紹介しました。
一方で、サービス提供側はデジタルを未だ“緊急時の(ちょっと不便な)代替手段”と捉えていて、リアルで提供できていた顧客体験価値がデジタルでは損なわれているケースが散見されます。消費者の新しい行動や価値観に適応したデジタルサービスを提供するためには、デジタルとリアルそれぞれの特性を理解して、提供価値が最大化されるよう顧客体験を再設計する必要があります。
今回は、デジタルとリアルを“良いとこ取り”して新たな価値を提供するモデルケースを紐解きながら、“オンライン接客”などの新しい顧客接点の設計におけるポイントを解説します。
<ケース1>オンラインの気軽さで間口を広げる
デジタル体験の最もわかりやすい価値は、遠隔でコミュニケーションやサービスの享受が可能になることです。これにより、コロナ禍において様々な社会活動の継続に大いに貢献しただけでなく、移動コストやそれに伴う金銭的・心理的コストが下がることで、これまで参加を躊躇していたような様々なイベントにも気軽に初挑戦しやすくなるという効果が生まれています。
この“気軽さ”という特性を生かせば、これまでリーチできなかった顧客層に向けた導入手段として活用することができます。
例えば、ハードルが高いと思われがちなクラシックコンサートや伝統芸能の舞台などを、親しみやすい解説と合わせてオンライン配信し、新規のファンを獲得する契機にすることが考えられます。海外旅行や高額商品の購買の前にVRで様々なシーンを疑似体験し、数ある選択肢の中から顧客自身に最適なものを見極めることで納得性の高い購買体験につなげるという取り組みは、既に不動産の内見や自動車の試乗体験といった分野で実際に導入が始まっています。
また、デジタルなら、様々な事情で頻繁な外出が困難な顧客や、遠方に住んでいてなかなか来店できない顧客へサービス提供を継続することも可能です。来店できない間もデジタルで繋がっていることで、競合サービスへの顧客の流出を防ぐことが期待できます。
こうした“間口を広げる”デジタル活用の際に留意すべきなのは、本命のリアル体験へ誘導するシナリオを明確にしておくことです。リアル体験の特性である臨場感や特別感の欠如により新規顧客に本来の魅力が伝わらなかったり、逆に、デジタルお試し版で満足してしまい、リアル体験へのステップとして機能しなかったりすることも想定されるため、どのように、どこまでデジタルで提供するのか、慎重に決める必要があります。