スマートシティとは、ICTを活用したまちづくりを行うことで、その街に居住し活動する人々の健康や幸福など「Well-Being」(人間が身体的・精神的に健康で幸福な状態にあること)を最大化するためのものです。
第1回は、先行する海外におけるスマートシティの事例や特徴、課題などの動向について、第2回(前回)は、巻き返しを図る国内におけるスマートシティの動向について紹介しました。
今回(第3回)は、このような国内外の動向を踏まえ、今後のスマートシティが備えるべき3つの要素について、筆者の考えを紹介します。
要素1:普遍的価値の根幹を成す「個人の自由とプライバシーの尊重」
これからのスマートシティが備えるべき1つ目の要素は、「個人の自由とプライバシーの尊重」です。これは人類の普遍的価値である「自由と民主主義」の根幹を成す要素です。
いくら生活が便利になるスマートシティであっても、プライバシー・データが知らないうちに悪用され、独裁的な政府が「ビッグ・ブラザー」として国民管理を行うディストピア(※1)であってはなりません。
※1…英国の作家・ジョージ・オーウェルが小説「1984年」において描いた、独裁者「ビッグ・ブラザー」によって市民が徹底的な管理下に置かれる統制社会
今後のスマートシティにおいて、「個人の自由とプライバシーの尊重」の参考となる3つの事例を以下に紹介します。
(1)トロントの蹉跌
米グーグルの親会社であるアルファベット傘下のサイドウォークラボ(グーグルの兄弟会社にあたる)が、カナダ・トロント市の港湾地区で進めてきたスマートシティ開発事業から撤退することが2020年5月7日に発表されました。
撤退理由として、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックとそれによって不確実となった経済社会」を挙げていますが額面通りに受け取る向きは少ないでしょう。同事業はかねてよりプライバシーへの懸念が強く、計画通りに事業が進んでいなかったからです。
街中に張り巡らされるセンサーは、市民がどのベンチにいつ座ったのか、道路の横断に何秒かかったのかまで、すべての行動が追跡可能であり、市民からは「プライバシーが侵害される」との反発の声が上がっていました。事業開始当初から、グーグルはどのようにデータを集めて保護するのか、誰がそのデータを保有するのかを懸念する批判に晒されてきました。
マスタープランでは、政府が監督するデータ管理組織を設置し、データ利用のガイドラインを公開することが提案されましたが、市民の懸念を払拭するまでには至らなかったようです。個人のプライバシー情報を広告収入に変えることで成長してきた企業(グーグル)が実施することに、多くの市民が不信感を抱いたのでしょう。私物のスマートフォンから個人情報を収集することは許容されましたが、様々な生活シーンの個人情報を公共空間で収集することは許されなかったようです。