武邑氏は、スマートシティ3.0を成功させるためには、「積極的な市民の参加」が前提になると指摘。この点をクリアし、スマートシティ3.0を成功させた都市として、スペインのバルセロナ、ドイツのベルリン、オランダのアムステルダムの3都市を挙げました。
なぜこの3都市は、市民が積極的にスマートシティに関わったのでしょうか? 武邑氏はその要因として、バルセロナのケースを例に、市民に不利益が無いようにスマートシティの政策を変えていったリーダーの存在を挙げました。
「バルセロナでは、2015年に同市初の女性市長に就任したアダ・クラウ氏がすべての発端となりました。彼女は2016年に市当局内に『デジタルイノベーションオフィス』という新部署を設置し、それを統括するCTDO(チーフテクノロジー&デジタルイノベーションオフィサー)にフランチェスカ・ブリアという女性を就任させました」
ブリア氏は、データの主権を市民に取り戻すEUのプロジェクト「デコード(分散型市民所有データ・エコシステム)」の創立者でもあります。彼女は『テクノロジーは、人間あるいは都市の市民をサポートするだけに存在する』という考えのもと、大手IT企業にデータプライバシーが吸い取られていく“データ経済”を批判し、データが市民にあることを世界に訴えました。
「彼女の強力なリーダーシップにより、バルセロナのスマートシティに関する政策は、大胆に変更されていきました」(武邑氏)
武邑氏はバルセロナを変えたもう1つの要因として、行政主導で市民を巻き込んだことを挙げました。
「バルセロナでは、オープンソースの『シティOS』を独自に開発し、このOSに接続するためのツール『スマートシチズンキット』を市民に配布しました。これは庭先などに設置すれば粒子状物質や一酸化炭素、騒音など、さまざまな都市環境が測定できる環境モニタリングキットです。
このキットの提供により、市民の参加意識が高まり、現在は9,000人を超えるアクティブユーザーを含む、数万人規模の市民が参加しています。1つの小さなキットが、スマートシティに市民を巻き込む大きな役割を果たしたのです」
欧州では現在、データの権利と義務を踏まえたうえで、個人の判断で行政や医療機関などに自身のデータを提供するためのAPIが開発されています。
「EUでは2020年2月19日に、中国や米国と一線を画す『デジタル自己主権』を目指し、人間中心主義のAI開発政策について、大きな方向性を打ち出しました※。個人のプライバシー保護に加え、データ共有も市民の自己主権となることが定められています。いまや欧州では、個人のデータを社会に、公益的に用いるフェーズを迎えているのです」
※EUは今後5年間で、EUのデジタル戦略として「人々に役立つ技術」、「公正かつ競争的な経済」、「開放的、民主的および持続可能な社会」の3点を目的に焦点を置くことを決定した。