日本のCDO(最高デジタル・データ責任者)が多数出演するイベント「CDO Summit Tokyo 2020 Winter」(主催:一般社団法人CDO Club Japan)が2020年12月1日(火)に開催。「スマートシティ3.0―DX:欧州からの視点」と題した講演が行われました。
講演では、日本大学芸術学部・東京大学大学院などで教授職を歴任してきた、ベルリン在住のメディア美学者・武邑光裕氏が登壇。武邑氏は、「スマートシティ」がヨーロッパの数都市で成功例があることを紹介。その背景に、欧州ではデータに対する意識が、日本を始めとする他の地域とは大きく異なる点を指摘しました。
ヨーロッパでスマートシティを実現に導いたデータの考え方とは、どのようなものなのでしょうか? 日本とは、どのような点で考え方が異なるのでしょうか? 武邑氏の講演から読み解きます。
なぜカナダ・トロントのスマートシティは頓挫したのか
武邑氏はまず、現代におけるスマートシティの概念と目的を説明。スマートシティとは、「都市のイノベーションを提案し続けるエコシステム」であり、スマートシティの目的が「市民の創造性を中心に都市を大きく成長させること」にあるとしました。
「ここ10年、欧州のスマートシティは段階的な進化を遂げてきました。最初の『スマートシティ1.0』では、大手企業が主導するテクノロジー中心の視点から都市づくりを目指しました。それが『2.0』になると、行政や政府が制度中心の視点で主導するようになりました。

メディア美学者
「武邑塾」塾長
Center for the Study of Digital Life
フェロー
武邑光裕氏
最新の『3.0』では、市民との協創を原則とした市民を巻き込むビジョンを描くようになっています。IT専門調査会社のIDCによれば、世界のスマートシティ計画への投資額は2023年に約20兆円に達すると予測されています」(武邑氏)
スマートシティの世界ではこのように巨額の投資が行われていますが、武邑氏はある失敗例を元に、スマートシティの実現は容易ではないと指摘します。
「2017年、グーグルの親会社であるアルファベット社傘下のSidewalk Labsは、カナダ・トロントのウォーターフロント地区の再開発プロジェクトに5,000万ドル規模を投じると発表しました。しかし、この未来都市構想は3年後の2020年に中止が発表されています。
表向きはパンデミックの影響で中止したとされていますが、実状はデータプライバシー(プライバシーの尊重とデータの保護)の管理に対する懸念が生じたことが原因と見ています。十分なデータ保全対策を講じることなく計画を進めたことで、議会や市民団体から追及を受けてしまったのです。欧米では『市民政治』『消費者政治』という文化が根付いており、企業は徹底して市民や消費者に懸念を抱かれるような取り組みをしません。一度火がつけば、ビジネスに大きな悪影響が出てしまうためです」