このDXを実現する、あるいはイノベーションを生み出すための方法論として、注目されてきたのが「デザイン思考」です。自身もアーティストである松永エリック氏は「デザイン思考は音楽をつくる過程と全く同じなのですごく理解できる」(松永エリック氏は15歳からプロミュージシャンとして活動)と話しつつ、デザイン思考を実践するためには過去のクリエイティブへの敬意が必要であると指摘し、松永エリック氏は「クリエイティブ思考」というものを提唱しています。
「僕も斬新と言われる音楽を作ってきましたが、クラシックやいろんな音楽を勉強し、リスペクトしているからこそ、イノベーションを生むことができたと考えています。しかし、今言われているデザイン思考の大半は過去を無視し、ただ突拍子もないことをやろうとしているにすぎません。ここを変えない限りは、良い方向に進むことはないでしょう。
重要なのは過去を理解することです。その上で、既存の枠組みを壊して歩みを進めるべきなのか徹底的に議論をするべきでしょう。それはまさに僕の提唱している『クリエイティブ思考』です。企業であれば、会社の歴史を作ってきた人に生の話を聞き、共感して、あらためて自分たちが今何をすべきなのか話し合うのが良いと思います」
これに対し、林氏は2019年にNTT Comが創立20周年を迎えた際、歴代の社長などに話を聞く機会があったと振り返ります。
「20周年を迎えて会社として生まれ変わろうということで、『REBORN』というプロジェクトが立ち上がりました。そこで歴代の社長を呼んでいろいろな話を聞き、その上で新しい企業理念を策定しました。この一連の取り組みの中で、この先10年後、20年後に向けて頑張っていかなければならないと、改めて議論・検討できたことは非常によかったと思っています」
さらに話題は、情報システム部門がDXにどのように向き合うべきかという内容にも及びました。ここで松永エリック氏は「今のサービスの基盤はITであり、そのITの基盤を抑えているのは情報システム部門です。つまり、情報システム部門は日本の企業のビジネスを支えているんです」と話し、その認識を持ってほしいと強調します。
さらに具体的に取り組んでほしいこととして、松永エリック氏が挙げたのは業務部門との連携で、そのためにもマインドセットを変えるべきと訴えます。
「業務部門からの意見やリクエストを“引き受ける”というマインドセットはやめてほしい。あくまで我々は業務部門と対等、もしくは上かもしれないというマインドセットに変えていただきたいんですね。情報システム部門に何かあれば、業務が滞るどころではなく、業務が潰れます。情報が漏れたら会社の信用が失われてビジネスが継続できなくなります。『我々はそういう企業活動の根幹にかかわることをやっているんだ』という態度で業務部門と接してほしいですね」