総務省では、先に挙げた「デジタル変革時代のICTグローバル戦略懇談会 報告書」にて、SDGsの達成で新たに創出されるICT関連市場は173兆円に上ると試算。さらに、「食料と農業」「都市」「エネルギーと材料」「健康と福祉」の4つを有望なビジネス領域としています。
境野氏は、この4つの領域について、特に注目すべき課題を順番に指摘。まず「食料と農業」については、食料の需要と供給のバランスを取り、必要以上に作らない取り組みを計画的に進めていく「バリューチェーンにおける食料ロスの削減」を挙げました。
「生産者の作付けから消費者が食べるまでのバリューチェーン全体を、ICTによって可視化することが重要です。そのためには、規模の大小問わず農場にICTを導入して販売者や消費者とつなぎ、市場に必要とされる量を計画的に作っていける仕組みが必要です」(境野氏)
「都市」については、スマートメーターなどを使って、電力の需要と供給をリアルタイムに可視化する仕組みを街中に普及させることを挙げました。
「新型コロナウイルスの影響により、オフィススペースに対する考え方は、従来から大きく変化しました。自社占有の設備やオフィスを持つのではなく、自宅やフリースペースで働くワークスタイルへ変革するためにも、ICTの活用は不可欠になると思っています」(境野氏)
「エネルギーと材料」の領域については、境野氏は最もインパクトが大きい分野と見ています。注目はスマートグリッド、再生可能エネルギーを中心にした自律分散型の電源で、たとえば太陽光や風力、バイオ燃料発電などを組み合わせ、消費地に近い場所でエネルギーを生産・消費できるようにするプラットフォーム構築の動きには特に注目すべきといいます。
「このエネルギーの“地産地消”の仕組みを実現するには、電力業界と通信業界が協力し、デマンドレスポンス(IoTなどICT技術を用いることで、電力の供給量と需要量を制御し常に需給を均衡させること)の仕組みが必要です。この仕組みが完成すれば、幅広い産業でエネルギーが効率的に使えるようになり、再生可能エネルギーをベースに社会が設計されていくでしょう」(境野氏)
最後の「健康と福祉」については、境野氏は新型コロナウイルスの流行で注目された遠隔治療や遠隔患者モニタリングが、今後、急速に普及すると予測します。海外では、医者が患者を遠隔で診察し、通院が不要な場合は薬を自宅まで送付する仕組みが普及している国もありますが、日本でも導入が進んでいくといいます。
「日本では電子医療カルテの普及が進んでいないため、遠隔治療を実現するためには、規制緩和が必要です。たとえば、健康保険証などのIDを提示するだけで過去の治療履歴や病歴、持病、服薬している薬などが保健機関、医療機関に見えるようにする仕組みが求められるでしょう」(境野氏)