そして境野氏は、高度なICTと人類の叡智を組み合わせて地球的規模でSDGsを達成する『全球自律神経』を実現させたい、と言います。
全球自律神経とは、人体が健康を維持し生命を持続させるために備えている自律神経のような仕組みを、ICTを使って地球のエコシステムに装備しようという境野氏の構想です。
たとえば、人体がウイルスの侵入を検知すると、咳により異物を排出し、発熱により上がった体温を発汗によって下げ、免疫細胞を増やしてウイルスを撃退し、抗体を作って再感染を防ぎます。全球自律神経はそれと同じように、地球の気象や動植物やヒトの活動をIoTやAIでグローバルに常時モニターし、異変や不正を検知したらソフトウェアとロボットとヒトが協調して自律的に応急措置や修復・是正を行う、地球規模のネットワークです。例えるなら、人間社会や生態系の健全性を持続させるための“ソーシャル免疫システム”のようなものです。
「はじめに取り組みたいのは、気候変動に伴う大規模な気象災害のリスクマネジメントです。気象災害は、重要インフラの1つである通信設備の安全を守るNTTにとっても無視できないリスクですし、個人、家庭、地域、企業、自治体、国などあらゆる人・組織の生命や財産に関わる重大な問題ですので、多くの人が関心を持って取り組めるテーマだと思います。
サイバー空間上のデジタルツインを使えば何度でも自由にリスクをシミュレーションできるので、法律や条令の制定や改正をしなくても、さまざまな実験を繰り返しながらシミュレーションの精度や効果を高められるでしょう。国内外の企業・大学・政府・自治体・市民団体などと協力して来年度にも取り組みを始めたいと思っています」(境野氏)
SDGs達成の目標時期である2030年までに残された期間は、あと10年しかありません。境野氏は「全球自律神経」の構想を実現するために、実行できる分野から早く取り組みをスタートさせ、業界や国境の垣根を越えて有志が協力してプロトタイプをつくり、試行錯誤しながらみんなでそれを進化させていくオープンイノベーションによる共創が重要だと語ります。
「SDGsの取り組みで先行する欧州では、昨年10月にドイツとフランスの政府が『GAIA-X』という分野横断の分散型データ連携基盤の構想を発表し、来年に運用開始する予定です。こうしたデータプラットフォームが整備されれば、気候変動やパンデミックといった社会課題の解決にも取り組みやすくなるでしょう。
いま私たちが尽力すべきことは、自社独自のやり方や従来の慣習に固執せず、SDGsという人類共通の目標に向かって国内外のいろいろな分野のプレイヤーとオープンに連携し、IoTやAIやロボットなど最新のテクノロジーや国際標準を積極的に取り入れ、ヒト・モノ・カネ・エネルギーの動きを持続可能な状態に最適化する『全球自律神経』のような仕組みを早く整備することだと思います。
そうした取り組みを産官学民が連携して今スタートさせれば、日本でも欧州GAIA-Xのようなプラットフォームを2~3年で構築できるのではないでしょうか。是非いっしょに取り組みを始めましょう」(境野氏)
SDGsに貢献するICT活用について、 簡易アンケートが2ページ目より表示されます 。 最も多かった回答についてエバンジェリスト境野氏の解説記事を後日掲載します。ぜひご協力ください(全1問)