では、日本の企業におけるSDGsの取り組みは、どのような状況なのでしょうか。境野氏は、日本企業の間でSDGsの認知度が高まってきた一方で、事業を通じてSDGsに積極的に貢献している企業は、まだ少ないと指摘します。
「大半の企業は、従来から取り組んでいる事業やCSR活動に、該当しそうなSDGsマークを後付けしただけのラベリングにとどまっていると指摘されています。SDGsの達成に向けて、新たな事業の目標や課題を設定し、新しい経営課題にチャレンジしている日本企業は少数だと感じています」(境野氏)
こうした状況を打破するきっかけになる材料として、境野氏は「ESG投資」を挙げました。
「近年、欧米を中心に、長期的な視点から、環境保全、社会性、企業統治に優れた企業だけに投資する『ESG投資』が主流になりつつあります。環境や人権への配慮を怠った企業が不買運動にあって業績を落とす事例が相次ぎ、保険会社や年金運用基金など数十年後を見据えた超長期の資金運用を行う機関投資家が、投資先を『持続可能性』の観点で選別し始めたのです。」(境野氏)
経済産業省が昨年12月に発表した「ESG投資に関する運用機関向けアンケート調査」でも、国内外の主要48社の運用機関の95%以上が「ESG情報を投資判断やエンゲージメントに活用している」と回答しています。
そのため企業の経営者には、SDGsをはじめとする社会課題に対する取り組み状況を投資家などの利害関係者に説明する責任が求められています。
しかしながら、現在は、各企業のSDGsへの貢献度や達成度を評価する標準的な“ものさし”は存在していません。前述の経産省の調査でも、85.4%の運用機関が「企業のESGに関する情報開示が不十分」と回答しています。そのため、国連の補助機関であるUNDP(国連開発計画)では、各企業のSDGsに対する取り組みをスコアリングする基準の制定を進めています。
「近いうちに、各企業のSDGs貢献度を客観的に評価しランク付けできる国際標準が出来るでしょう。世界中の投資家がSDGsの観点で各企業の事業の持続可能性を評価して投資先を選別する時代を迎えることになります。そのとき、地球環境や人権の分野でSDGs達成度が低いとされる日本で事業を営む企業は、不利になる恐れがあります。
環境対策や人権保護にコストをかけても儲からないと考えて取り組みを怠っている企業は、やがて投資家や顧客を失って衰退し、市場から排除される可能性もあります。SDGsへの貢献は、企業が存続するための必須条件になるかもしれません」(境野氏)