国際標準化を目指し、世界中に参加を呼び掛けているGAIA-X/IDSの現状を考えると、日本企業にとっても海の向こうの遠い話と考えるのではなく、「備え」が必要かもしれません。もしGAIA-X/IDSが欧州標準や世界標準になるならば、日本とのデータ共有の仕方やビジネスの在り方が大きく変わる可能性があるからです。
「わかりやすく例えるならば、各企業にとっては、インターネット黎明期に行ったのと同じような試行錯誤が急に必要となるかもしれません。自社の製品やシステムを欧州とネットワークでつなぎ国境を越えて拠点間や企業間でデータを共有するには、欧州の規制に準拠してIDSコネクタを適正に運用するノウハウが求められるでしょう。RoHS指令やGDPRへの対応で苦い経験をされた方であれば、欧州の新たな規制や標準に対応する苦労は推測できるかと思います。
また、将来的には、IDSコネクタで通信できる相手としか通商取引に応じてもらえなくなる可能性もあります。契約や受発注などの業務も自動化されるIndustry4.0の時代になると、情報をリアルタイムかつ安全に共有できる相手でないと取引しづらくなるからです。国際的に通用する独自のデータ流通プラットフォームを持っていない日本としては、今からGAIA-X/IDSに対抗する独自規格を作るよりもGAIA-X/IDSに順応するのが得策かもしれません。
まずGAIA-X/IDSがどういうもので、どういう標準仕様になっているかを知る。そして使いこなせる技術者、運用するオペレーターを育てて、いつ取引先から要請されても対応できる準備を進めておくべきでしょう」(境野氏)

1990年代にインターネットが広く普及した背景には、面倒なIPアドレス管理やサーバー管理を請け負うことで利用者の利便性を図ったISP(インターネットサービスプロバイダー)の存在がありました。今回のGAIA-XにアクセスするIDSコネクタ利用の面倒な手間を解消する、ISPのようなプロバイダーの役割を通信事業者が担うことも検討してみるべきだと境野氏は指摘します。
「例えば、通信事業者が提供するオーケストレーターのようなものにユーザーがアクセスして、通信相手を選ぶだけでデータ共有の設定ができる仕組みをネットワークサービスとセットで提供できれば、ユーザーに喜ばれるはずです。GAIA-Xの実装が予定通りに進むようであれば、迅速な対応が求められます。皆さんが困っているときに頼ってもらえるよう、NTTグループとしてはあらためて通信事業者としての役割を考え直すべきだと思っています。
一般的に日本の製造業は海外と比べて、利益率が低いと言われています。しかしGAIA-Xのようなデータ流通プラットフォームを活用しデジタル化を推進すれば、生産性の向上や利益率の向上につながるはずです。私たちはそうした企業のデジタルトランスフォーメーションのお役に立ちたいと考えています」
コロナ禍で進んだヒト、モノ、カネのリモート化や、自律分散化の流れが元通りに戻ることはおそらくないでしょう。With/Afterコロナ時代のデータ流通プラットフォームは、自社のバリューチェーンやサプライチェーンのみならず、市民に提供されるサービスやモノを含めてすべてが調和される世界だと境野氏は考えています。
「今回のコロナ対策はきっかけであり、パンデミック対策で作り上げた仕組みはSDGsが掲げる多様な社会課題を解決するインフラになっていくでしょう。今後もオープンな標準プロトコル、マルチキャリアで接続できるグローバルなデータ流通プラットフォームづくりを産官学で知恵を合わせて進めていきます。SDGsがターゲットにしている2030年をめざして10年がかりでつくっていく覚悟です」
With/Afterコロナ時代を迎え、今後ますますグローバルなデータ流通が加速すると予測される中、日本企業も世界の潮流を見据えた対策を練る必要があります。データのデジタル化や通信手順、データ形式の統一、OTとITの接続、そして人材育成など、いまから準備を進めておくべきかもしれません。