コロナ禍を受けて、世界的にも国際標準のデータ流通プラットフォームを構築する動きが加速しています。その際にクリアにすべき問題点として挙げられるのが「セキュリティ」と「データ主権」(データの提供者や利用者の権利保護)です。
まずセキュリティについては、セキュリティに関する法令や国際標準に準拠して不正アクセスやサイバー攻撃からデータやプラットフォームを守り、安全にデータを流通させる仕組みづくりが条件になります。
そしてデータ主権については、各データにいつ、どこから、どの利用者がアクセスできるかといった条件を法令などに従って公正に管理する仕組みをつくることが求められます。たとえばアメリカの場合は、国家安全保障のために米国企業が管理するデータを開示させる法律(通称CLOUD法)などもあり、データ主権の観点からは、各国の政策にも目を向ける必要があります。
このようなセキュリティとデータ主権という課題をクリアにするデータ流通プラットフォームの仕組みとして、ドイツとフランスが進めているクラウドプロジェクトが「GAIA-X」です。
これは、IDS(International Data Spacesの略)と呼ばれるインタフェースを使って、欧州の企業や行政機関、市民の権利を守るためのデータ保護やオープン性、信頼性、データ主権などの機能を持つ相互運用性、相互接続性を保ったデータ流通プラットフォームの社会実装を目指すものです。国際標準化を目指すため対象地域は欧州に限らず、世界中に参加を呼び掛けています。
「GAIA-Xの狙いは、アメリカなどによる法的なデータ開示要求から、欧州の持つデータ主権を守るためにヨーロッパ専用のデータ空間をつくることだと言われています。GAIA-Xは、データを1カ所に集約するのではなく、オンプレミスのコンピュータやクラウド上といった、利用者の環境に置く分散型のデータモデルになっています。これをIDSコネクタと呼ばれる通信モジュールで、データ利用条件の書かれた規約にもとづき、データの開示・非開示を判断する仕組みです。IDSコネクタがないと、このデータ空間にアクセスすることはできない仕組みです」(境野氏)
GAIA-Xのデータアクセス制御の仕組み

各拠点のデバイス/エッジと 各社クラウドが IDSコネクタを介して通信し、データ利用規約に書かれた条件に従ってアクセスの可否をコントロールする
GAIA-XにアクセスするためのIDSコネクタの仕様は国際標準化をめざして策定されており、標準仕様書が完成し、まもなくプロトタイプが公開される段階で、年内には対応製品も出てくる予定です。GAIA-Xの土台となるヨーロッパ専用のデータ空間は2021年初旬にプロトタイプの完成を予定しており、今年2月に欧州委員会が発表した“A European Strategy for Data”によれば、おそらく法整備を含めて2022年、2023年くらいまでに完成するのではないかと境野氏は考えています。
「欧州では、GAIA-Xを製造業だけではなく、物流、交通、医療、エネルギーなどのスマートシティ構想などにも活用し、新しい産業を生み出していく戦略を立てています。
コロナの感染予防という観点から、例えばシーメンスなどは、工場のラインや機械、作業員などをデジタル空間に配置して動きを予測するプラントシミュレーターを駆使して、作業員同士の接触を回避する取り組みを提案しています。
シーメンスではこの取り組みを都市空間にも広げようとしており、そうなるとGAIA-X/IDSの提唱する安全で信頼できるデータを社会全体で流通させる仕組みが実現されていく可能性があります」
GAIA-Xを基盤としたスマートシティ
