続いて講演を行ったのは、一橋大学商学部の教授である神岡太郎氏です。まず神岡氏は、マシソン氏のプレゼンテーションを受けて次のように語りました。
「新型コロナウイルスは大変な問題ですが、実はDXに関わるCDOはチャンスだと思っているのではないでしょうか。この点はアメリカと日本は似ている印象を受けました。意外なほどみんなが前向きで、これを変革のチャンスにしようという人が非常に多いです」
今回のコロナ禍の中で考えるべきこととして神岡氏が挙げたのは、学習とそれに伴う行動変容です。
「『学習』はもともと心理学の用語で、知識を獲得するという意味ではありませんでした。経験に基づいて行動を効果的に変えることが『学習』の本質です。
今回のパンデミックで、多くの企業がテレワークを始めました。この働き方を、新型コロナウイルスが収束したらすぐにやめるのではなく、持続的かつ効果的に取り組み続ける。そういった『学習』を行っていくことが重要だと思っています」
さらに神岡氏は、日本政府の新型コロナウイルスへの対応を引き合いに出しつつ、アジリティ(俊敏性)の大切さを語りました。
「物事に対して俊敏に対応する上で、デジタルはとても効果的なツールです。その上で、データにもとづいて素早く対応することができれば、新型コロナウイルスの感染者数や経済的な損失も、もっと抑えられた可能性があります」
アジリティを発揮するための、神岡氏は具体的なポイントとして「センス」と「シーズ」、そして「アクション」を挙げます。
「センスについて日本に課題があったとすれば、マイナンバーカードを使うための環境や、検査の仕組みが整っていなかったことだと思います。データを取得する仕組み不十分でした。
シーズについては中国で感染が広がったときに、自分たちの課題として捉えられていなかったことに問題があります。感染症の情報は入ってきていたものの、それを自分たちの世界に置き換えて解釈するイマジネーションがありませんでした」
最後のアクションにおいては、「たとえば新型コロナウイルスの感染者の接触状況をトラッキングする、そういったアプリを一部の国ではすぐに開発していました。しかし日本ではいまだできていません(注:2020年6月2日時点)。日本政府にCDOのようなデジタルを扱う司令塔がいなかったことが大きな問題だと思っています」と話しました。
そして神岡氏は次のように講演を締めくくりました。
「新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、個人にとっての価値、企業にとっての価値、社会にとっての価値という方向性を、あらためてDXと絡めて考え直すという機会にしてはどうかと思っています。この3つの軸を固定的に考えるのではなく、もっとダイナミックに考えるべきではないでしょうか」
新型コロナウイルス感染症の拡大で、世界経済の先行きは決して明るいとはいえません。しかし、マシソン氏、神岡氏の講演からわかるのは、多くの企業のCDOがこの苦境をDXを推し進めるチャンスだと前向きに捉えているということです。企業のデジタル責任者には、デジタル技術の活用がより重要となる、With/Afterコロナの時代を見据えた活動が求められているといえるでしょう。
次回の「CDO Online Summit Tokyo 2020」レポートでは、「パンデミックによって起きた経営変化とデジタル変革の取り組み」をテーマにさまざまな業界のCDOが一堂に会したラウンドテーブルの模様をお届けします。