内山:最後のキーワードは、「基幹系クラウドファースト」です。システムを情報系と基幹系で分けたとき、これまでは顧客管理など情報系のシステムでクラウドを使うことが多かったですが、今後は基幹系システムでもクラウドを使う動きが加速するでしょう。勤怠管理や経費精算など、部分的にはすでにクラウドサービスを利用するケースが増えています。
この流れはERP(統合基幹業務システム)にも波及しており、SaaS型サービスの利用やパッケージをIaaS上に構築する比率が高まっています。これからERPを再構築する場合、まずクラウドで実現できないかを検討し、要件が合わないなどクラウド運用が難しかったときにオンプレミスを選択するという順序になるでしょう。
この領域でインパクトが大きかったのは、経済産業省が公表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」です。このレポートでは、ブラックボックス化したレガシーシステムから脱却しないまま2025年を迎えると最大で年12兆円に及ぶ経済損失が生じる、というメッセージを打ち出しました。「2025年の崖」というキーワードは経営層に刺さり、「社内システムの変革は、IT部門ではなく経営課題」という認識が広がりました。
――ERPに関しては、SAP ERPの保守サポートが切れる「2025年問題」もあります。これらを踏まえたとき、企業は2020年に何をすべきでしょうか。
内山:2025年のリプレースを考えるのであれば、「今からでは遅い」くらいの危機感を持つべきです。SAP ERPの刷新プロジェクトは通常2年程度はかかりますし、その前段階で現状の棚卸しや要件の検討などの時間がさらに必要です。
人材確保の問題もあります。2025年に向けて多くの企業がERPの刷新プロジェクトを進めると、それに対応できるコンサルタントやエンジニアが不足し、人材の奪い合いになる可能性があります。プロジェクト開始が遅れるほど、そうした人材の確保にも頭を悩ませることになりかねません。
――ERPのクラウド移行で、注目している事例はありますか。
内山: ある化学メーカーでは、5,000名以上のユーザーが利用する人事、会計、サプライチェーンを含む基幹業務システムを、検討開始からわずか約1年でクラウドに移行しています。
――ここまでの5つのキーワードで、昨今話題の「5G」が挙げられなかったのが意外でした。
内山:5Gは、工場での制御や医療分野などさまざまな業種に大きなメリットをもたらし、社会を変える可能性を秘めた技術です。しかし、企業が投資の対象として本格的に検討を始めるのは2年後ぐらいではないでしょうか。各分野で検証などは行われると思いますが、本格導入はもう少し先になるでしょう。
――ありがとうございました。後編では、内山さんが多くの企業でコンサルティングを行っている「デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流」について伺います。