「2025年の崖」というキーワードで話題となった「DXレポート」。その編纂者である経済産業省の和泉憲明氏が、2019年11月29日に開催された「第16回 itSMF Japanコンファレンス/EXPO」に登壇。「デジタルトランスフォーメーションの推進と政策展開」と題した講演で、DXの事例を交えながらDX推進政策の背景と狙い、展望などについて語りました。同講演から見えてきた、「2025年の崖」を乗り越えるためのポイントを紹介します。
これからではない。すでにDXは始まっている
和泉氏はDXの研究のために、数多くの有識者、業界団体にヒアリングを実施してきました。そこで奇妙な違和感を覚えたといいます。
「DXのはじまり、あるいは厳密な定義ばかりを語られる方が多く、悪く言えば“言葉遊び”ではないかと感じました。DXは、5年後、10年後の未来に起きるものではありません。すでに始まっており、完了しているケースさえあることを認識して欲しいと考えています」(和泉氏)
和泉氏が一例として取り上げたのが、パリの地下鉄。「世界的な観光地であるパリは、大きなイベントがあるごとに駅が混雑していました。そこで、1998年にパリの地下鉄は自動運転を開始。混雑する駅に応じて臨時便を増発できるようにすることで、リアルタイムでの混雑緩和を可能にしました。このDXは、20年以上も前に完了しています」
DXが進む中で、企業に必要なのは明確なビジネスモデルを描くことだといいます。
「経営陣がDXに対する投資をいかに刈り取るか、ビジネスモデルをはっきりと描くことが大切です。日本のIT産業が顧客や社会のニーズに耳を傾けず、技術論に終始するのは産業戦略として正しくないのではないかという想いがあります」(和泉氏)
日本と海外の違いを示すために、和泉氏が一例としてあげたのが、海外ではサービスが開始している「無人コンビニ」です。
「ある海外の無人コンビニでは、買い物客はスマホのQRコードをゲートにかざして入場。商品を手に取り、ゲートで再度QRコードをかざすだけで清算を済まして店を後にできます。それにより、すばやく、正確に買い物ができるようになっています」(和泉氏)
和泉氏は、日本で無人コンビニの実証試験を視察。そこで使用されていた天井にあるステレオ立体カメラで買い物客を感知する仕組みについては、最先端の技術と評価できたといいます。しかし、商品を手に取った後、店内の端末にスマホをかざすだけでは外に出られず、商品の一覧から購入したいものをいちいち照合する必要であり、顧客体験を損なっていたと説明します。
「日本は、要素技術では優位に立っています。それにも関わらず、ビジネスモデルの作り込みで海外に負けているのです」(和泉氏)