現在神奈川県は「未病」という考え方の啓発を推し進めています。未病とは心身の状態を健康と病気の二分論の概念で捉えるのではなく、健康と病気の間を連続的に変化するものとして捉え、変化の過程を表す概念です。
神奈川県副知事CDOの首藤健治氏はこの未病のコンセプトが浸透することで、さまざまな社会システムにパラダイムシフトが起こると説明します。
「未病の概念が当たり前になることで、市民が自分自身の健康に興味、関心を持ち、少しでも身体の状態を良くする活動を行うようになります。ここに大きな価値が生まれます。
例えば、認知症は発症してしまうと医療保険や介護保険の財源を圧迫してしまう要因になります。これを発症前段階で察知し、治療を行えるような社会システムができれば、医療コストが軽くなるだけでなく、新たなバリューを生み出すパラダイムシフトが起きる可能性もあると考えています」
神奈川県ではWHO(World Health Organization:世界保健機構)などと連携しながら、未病指標を発表しています。これは100点満点で点数が大きいほど健康で、逆に小さいと疾病リスクが高いことを示す指標です。
「たとえば未病指数が50ぐらいのおじいさんがいたとします。この方が3年後の孫の結婚式に車椅子を使わずに元気に参列したいと考えた場合、指数を65程度まで上げる必要があります。こういうことがわかると、15上げるために頑張ろうという前向きな気持ちになれる。
では未病指数を上げるためにどうすればいいのか、ここにヘルステックやAI、ロボットなどさまざまなサービスが参入する余地があるのではないでしょうか」
神奈川県は独自の取り組みとして、日々の歩数や体重、健康診断の結果や、処方された医薬品情報などを管理できるスマートフォンアプリ「マイME―BYOカルテ」を開発し、市民のヘルスリテラシー向上の後押しをしています。また、特別支援学校では分身ロボット「オリヒメ」を導入するなどヘルスケアとデジタルの融合を進めています。
「今まで医療はコストでした。しかしデータを活用し、健康投資的な発想を持つことで、バリューモデルに変えることもできるはずです。知事が提唱する『いのち輝く社会』目指してこれからも邁進していきます」(首藤氏)
人々の健康、そしてこれからの社会にDXがどのような価値をもたらすのか、今後の神奈川県の取り組みが注目されます。
登壇した4人のCDOのプレゼンテーションに共通するのは、新規事業の創出や業務効率化といった新たな価値創造に取り組む“攻めのDX”の姿勢です。社内、あるいは国内で完結するのではなく、外部連携やグローバル対応を重視するコメントも多く見られました。自社でDXを推進する際は、4人のCDOの言葉を参考にしてみてはいかがでしょうか。
