昨今、東京都内の公園の駐輪スペースなどでよく見かける“赤い電動自転車”。車体に「docomo」のロゴが付いているのをご存じの方も多いのでは。その正体は、株式会社ドコモ・バイクシェアが事業展開する自転車のシェアサービスです。2011年、横浜市にてサービスを開始。以来、順調に拡大を続けてきましたが、サービスの認知・利用拡大に伴い、コールセンターの応対稼働が逼迫してしまうという問題が発生。同社は、その課題にどう取り組んでいるのでしょうか。
【株式会社ドコモ・バイクシェアについて】
主な事業
・自転車シェアリング事業の運営、
・自転車シェアリング運営事業者へのシステム提供、
・コンサルティング業務
2015年2月設立。自転車とモバイルを融合させた環境に配慮したサイクルシェアリングシステムを提供。自治体やマンション等の民間施設、他のサイクルシェアリング運営事業者に対し、システム提供やコンサルティング業務を推進することで、地球にやさしいソーシャルインフラの実現を目指している。
自転車シェアリングは、従来の借りた場所に返すレンタルサイクルとは異なり、都市に分散するサイクルポート(駐輪スペース)の“どこでも”借りられて、“どこでも”返却できる自転車の共同利用(シェア)を実現するサービスです。このサービスは、交通系ICカード読み取り機能や駐輪場所の制御機能を有する通信モジュールを備えたIoT自転車を使うことで成り立っています。
株式会社ドコモ・バイクシェア(以下、ドコモ・バイクシェア)は、全国に先駆けて、2011年の横浜市「baybike」のサービス開始を皮切りに、東京都内を中心に28都市に、約9,100台の自転車、約1,040カ所のポート(駐輪スペース)を設置しています(2018年12月末時点)。利用状況は大幅な増加傾向にあり、2017年度時点ですでに利用回数が470万回(前年度220万回)に到達しようとしていました。
利用者数の大幅増加に伴い、利用方法等についての問い合わせもかなり増えてきました。
「通勤通学目的での利用が多いことが時間帯別の利用傾向からうかがえます。朝と夕方がピークで最も利用される時間帯ですね」と、株式会社NTTドコモの姜一欣氏は語ります。
「サービスについての問い合わせ窓口として24時間365日有人による電話対応のコールセンターを開設しているのですが、月に1万件以上になるほどに件数は増加傾向にありました」(姜氏)。とりわけ朝夕のピーク時に電話が集中したといいます。
「30分毎に加算される料金体系のため、急いで返却したい利用者から、コールセンターに電話がつながらないといったクレームが寄せられることがありました。緊急でお困りになっているお客さまをお待たせせずに対応できるよう、定型文句で対処できるような問い合わせコール数を削減することが私たちにとって喫緊の課題でした」と姜氏は話します。
また、コールセンター特有の課題も重くのしかかっていたといいます。
「サービス内容が新しくて多岐にわたるため、コールセンターでの応対教育には一層力を入れていますが、一般的にコールセンターは離職率が高いせいか、スキル向上した人員が離職するなどの例もあり人材確保や育成面での稼働も負担となっていました」(姜氏)
COTOHA Chat & FAQの導入により
コールセンターへの問い合わせ数を大幅に削減するメリット

そこで、2017年8月ごろから同社は、スマホでFAQを便利に活用できるAI機能を搭載したチャットボットの導入に向けた検討を開始しました。
AI機能搭載のチャットボットによる問い合わせ応対により、電話応対稼働の軽減を図れないかと考えたのです。当サービス利用者からの質問に対して、「正確な回答候補」を提示することがAIチャットボットの活用につながるという考えがありました。そのため、FAQの精度向上も重要な打ち手となりました。
「『料金プランの詳細を教えてください』などFAQを見てもらえれば解決する問い合わせが圧倒的に多いこともわかっていたので、これらの問い合わせコール数を全体の5割以下に減らすことで人材コストの削減につなげようと考えました」と姜氏は当時を振り返ります。
同社はパートナーにNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)を選定し、問い合わせのインターフェースとなるAIチャットボットのエンジンとして「COTOHA Chat & FAQ(以下、Chat & FAQ)」を採用しました。
「お客さまからの質問の意味を理解して正しい回答候補を提示するセマンティック検索が特長であるChat & FAQの導入によって、私たちが抱える課題の解決につながると思いました。検討を始めてから2カ月間、自社のサービスも含め複数社のサービスをテストするなど検討を重ねた結果、サービスの内容、導入実績はもちろんのこと、同じNTTグループとしての連携性も期待できると考えて選定しました」と、姜氏は振り返ります。
自転車シェアリングの利用者が自転車を借りたり返却したりするときに、コールセンターに電話で問い合わせをしなくても手元のスマートフォンですぐに質問ができ、回答にアクセスできるというサービスを利用者に提供するため、システムのトライアル導入の準備が始まりました。
要となるFAQについては、当初は整備されているとは言えない状況だったといいます。
姜氏は「オペレーター宛のメールや電話の応対履歴などをベースに、質問内容で多いものから順に1つ1つ拾っていき、重複を削除したり、正しく回答できていなかった問い合わせの回答を用意するなど、FAQを地道に整備していきました。非常に手間がかかりましたが、NTT Comと連携しながら、FAQの充填・更新を重ねていきました。利用方法のサポートもあり、大変助かりました」と語ります。
同社はChat & FAQによる問い合わせ対応の正式なサービス展開に向け、現在、半年間のトライアル運用を実施しており、期間中に効果検証を行っていく予定です。
「Chat & FAQを用い、問い合わせに対する正しい回答を即座に提示し続けることで、利用者からのChat & FAQ活用頻度が増えると想定します。これが電話による問い合わせ件数の低減から、目標と掲げるコールセンターの運用コスト削減につながると考えています」(姜氏)
トライアル運用の中、Chat & FAQが持つ分析レポート機能によって多くの知見が得られたといいます。姜氏は以下のように評価しています。
「検索履歴から問い合わせ内容を分析するという機能をよく活用しています。お客さまによる検索が多いのに対しデータベースに回答が少ないなどのケースが発見できれば、FAQの整備に役立てることができるからです。また、レポート機能についても数値的な統計を社内で共有できるので便利ですね」
また、電話応対時であってもChat & FAQの特性を活かし「正確な回答候補」を検索表示させることで有人応対の回答の標準化が図られ、人材育成の補助ツールとしても利用価値を見出しているといいます。
姜氏は今後の展開とNTT Comへの期待について、「今後外国人の方が利用される機会が増えることを想定して、多言語対応による外国人の利用促進にも取り組んでいきたいと考えています。さらにチャットだけではなく、年齢や言語の制限を超えて音声入力に対応可能になると、お客さまに対してより柔軟な対応ができるのではないかと期待しています」と語りました。
同社を含め自転車シェアリング事業は、ポート設置場所の増加など今後も拡大が見込まれているといいます。Chat & FAQ導入の効果は、問い合わせ窓口の人材コスト削減にとどまらず、サービス利便性向上による顧客満足を通して、ドコモ・バイクシェアのリピート利用の増加や利用者数増加に少なからず寄与していくことでしょう。「将来的に他のサービスにも展開していきたい」と、姜氏はChat & FAQ導入効果に期待を寄せています。