オペレーターを増員できない、すぐ辞めてしまい育たない。コンタクトセンターの現場では、慢性的に人材不足の課題を抱えています。限られた人数でコンタクトセンターを運営するため、現在、さまざまなシステムやサービスを導入することで業務の効率化を図るケースが増えています。応対通話の音声を自動的にテキスト化する「音声認識サービス」もその一つです。
音声認識サービスは、通話音声を自動でテキスト化することで、「応対履歴を入力する」「通話を聞き起こす」稼働を軽減できます。しかし、コンタクトセンターの運営に長年携わるNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)の馬場孝一氏は、「一部の業務を効率化しただけでは、コンタクトセンターの本質的な運営改善にはつながらない」と話します。
今回は、馬場氏が金融業A社へ導入した「音声認識とAIを組み合わせた」システム構築事例をもとに、最新のコンタクトセンター運営改善策を紹介します。
ベテランと新人の「応対スキル」のばらつきが課題
多岐にわたるサービスを展開する金融業A社は、年間190万件ほどの問合せがある大規模なコンタクトセンターを運営しています。しかし、応対には金融の専門的な知識やスキルが必要なため、マニュアルの作成や研修をしてもオペレーターの応対品質にばらつきが出てしまうことが課題でした。
「多くのコンタクトセンターには紙ベースのマニュアルが存在し、ベテランのオペレーターであれば、問合せに的確な回答を手早くマニュアルから探し出して応対できます。しかし、経験の浅いオペレーターは即答できる回答も少ないでしょうし、ページ数も多いマニュアルの中から回答を見つけ出すのに時間がかかります。答えが分からない場合は通話を保留してFAQを確認したり、上司のスーパーバイザー(SV)にエスカレーションし確認しています。
こうして応対時間が長くなるほど、問合せをしたユーザーの印象は悪くなります。特に、トラブルに関する問合せでは、一刻も早く答えを知りたいユーザーが電話をかけてくるため、応対時間が長くなる、曖昧な回答をしてしまう、そのような応対はクレームにつながることもあります。
A社さまではオペレーターはアドバイザーと呼ばれていますが、コンタクトセンターの規模が大きく、問合せの応対に専門的な知識が必要なため、アドバイザーによって応対品質が二極化しやすい状況でした。長期的な視野でコンタクトセンター運営の改善を考えたとき、“個々のアドバイザーの知識やスキルに依存しない体制の構築”が必要でした」