企業と法律の関わり方が変わりつつあります。働き方改革関連法などの法律が厳正化され、社員の雇用について守るべきことが増えたことで、大企業のみならず、中小規模の企業でも法律と向き合う機会が多くなっています。
しかし、弁護士事務所などと顧問契約を結んでいるのは大企業が中心。ほとんどの中小規模の企業では、自力で法律を調べて対処しているのが現状です。そのような中、法律を相談できるツテを持たない企業のニーズに応えるAI活用型のオンライン法律顧問サービスが、2019年9月に登場しました。いったいどのようなサービスなのでしょうか。開発を手がけた株式会社アガルート(以下、アガルート)にその背景や特徴などを聞きます。
【株式会社アガルートについて】
国家試験、検定試験等のオンライン予備校「アガルートアカデミー」を運営。事業の軸となる「法律」「教育」に新たなテクノロジーを掛け合わせることで、数多くのイノベーションを下支えする社会的なインフラとなることを目指している。
ほとんどの中小企業は、法律の相談を気軽にできない
アガルートは、オンライン予備校を運営し、これまで弁護士、司法書士、社会保険労務士、行政書士などの有資格者を数多く輩出。加えて、出版事業、法律会計事務所の運営なども手掛けています。同社取締役で行政書士の阿部剛氏は、法律と向き合う機会が増えている現状における、企業の課題についてこう説明します。
「たとえば、採用した社員が初日から来なかった場合は、法的に『解雇』と『採用取り消し』のいずれが適切なのか。退職した社員から内容証明が届いた際には、どう対処するのがベストなのか。顧問弁護士を持たない企業の多くは、こういった法律関係の疑問についてインターネットで調べてしまいがちです。しかし、ネット検索では誰がいつ出した情報かが明らかではなく、誤った情報も多く見受けられます。それらを信じて事態に安易に対処してしまうと、最悪の場合、罰則を受けてしまうことにもなりかねません」
不意に発生する法律相談のために、弁護士と通年の顧問契約を結ぶ企業は限られています。開示されている資料からは、顧問契約の総数は多くても約20万件程度と推計されます。これに対して中小企業庁のデータでは、大企業の数は1.1万社、中規模企業数は55.7万社、小規模事業者数は325.2万社となり、中規模企業でも顧問契約を締結しているのは3割程度、小規模事業者はほとんどが顧問契約を結んでいないと推測されます。このような実情を踏まえ、法律とITを掛け合わせた“リーガルテック”の領域に着目したと、阿部氏は語ります。
「費用面などの理由で顧問弁護士を持てない中小企業を対象に、AI技術を活用したオンラインの法律相談窓口を立ち上げたいと考えました。目指したのは、弁護士監修のもとで正しい情報を網羅した、誰もが安心して利用できるプラットフォームです」