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2019.09.24

なぜ腕時計工場が高画質なインクジェットプリンターを作れたのか?

エプソンの家庭用プリンター

「カラリオ」といえば、セイコーエプソン(以下、エプソン)の家庭用インクジェットプリンターのブランドです。カラリオシリーズは、1995年の発売開始以来、国内市場での累計販売台数は6,000万台を超え、家庭におけるプリンターの普及に貢献してきました。

 しかし、エプソンの前身である有限会社大和工業は、もともとは腕時計を製造する会社でした。なぜそんな会社が、プリンターを作るようになったのでしょうか? エプソンとカラリオの歴史を紐解きます。

 

腕時計工場とプリンターを引き合わせた出来事とは

 エプソンの前身である有限会社大和工業は、1942年、長野県諏訪市に誕生しました。腕時計の製造を行っていた第二精工舎の協力工場として事業をスタートし、戦後は技術力を買われて「セイコー」ブランドの腕時計製造の一翼を担うことになりました。

 1968年、そんな同社(当時は諏訪精工舎)に転換点が訪れます。同社初となるプリンター「EP-101」を発売したのです。

 同社は1964年の東京オリンピック開催時に、公式時計を担当していたセイコーのグループ企業(当時)として、精工舎や第二精工舎と共同でスポーツ競技用の電子記録システム「プリンティングタイマー」を開発していました。これは自転車や水泳などストップウオッチでは判定しにくい競技を、人の手に代わって自動的に計測するというもので、記録を印字する機能も備えていました。つまり、同社はここでプリンターを作るノウハウを得たのです。

 EP-101の特徴は、小型で軽量な点にあります。1960年代はオフィスに電子式卓上計算機が導入されつつある時代で、プリンターの需要も増加傾向にありました。しかし、当時のプリンターは大きさが約30平方センチメートル、重さが10kgを超える巨大なものしかありませんでした。

 これに対しEP-101は、手のひらに載るサイズで、重量も2.5kg、消費電力も従来のプリンターの約20分の1に抑えた画期的なデジタルプリンターで、扱いやすい点が特徴でした。同製品はアメリカを中心に累計販売台数144万台という大ヒットを記録しました。

「EPSON」ブランドが誕生するきっかけも、このEP-101のヒットでした。「EP(ELECTRIC PRINTER)-101の子供たち(SON)のような製品群を世に送り出したい」という願いから、1975年にエプソンブランドが制定されています。

 

カラリオの高画質を支える「マイクロピエゾヘッド」の秘密

 EP-101の印字方式は、タイプライターと同様、インクを帯状にした「インクリボン方式」です。しかしエプソンでは、EP-101が誕生してから16年後の1984年に、同社のインクジェット方式では初号機となるモノクロプリンター「IP-130K」の開発・発売に成功します。

 インクジェットプリンターは、インクをヘッドから紙などの被印字媒体に飛ばして印字します。インクを飛ばす仕組みには複数の方式がありますが、IP-130Kでは印字ヘッドに「ピエゾ素子」を用いるピエゾ方式が採用されました。ピエゾ素子は電圧をかけると変形する特性があり、そのはたらきを利用してインクを吐き出します。

 IP-130Kの販売価格は約50万円と非常に高価であり、残念ながら広く普及したわけではありません。しかしエプソンは、その後もインクジェットプリンターの開発を続け、新製品を市場に投入していきます。

 当時、ピエゾ方式は熱を加えないためインクの種類を選ばない、印字ヘッドの耐久性が格段に高い、という利点を持つ反面、ヘッドの小型化が難しいという短所がありました。

 しかしエプソンの技術者たちは、… 続きを読む… 続きを読む

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セイコーエプソン株式会社について
■ 事業内容 情報機器、精密機器、電子部品、産業機器などの開発・製造・販売
■ 本社所在地 〒392-8502長野県諏訪市大和3-3-5
■ 従業員数 連結76,647名/単体12,713名(2019年3月31日現在)
■ ホームページ

https://www.epson.jp

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