ペンで書いた文字がこすると消える。そんなユニークなコンセプトを持つのが、パイロットコーポレーションの筆記具シリーズ「フリクション」です。
フリクションは、一度書いた文字をペンの後端部に付いている専用ラバーでこするだけで、きれいに消すことができる点が特徴です。2006(平成18)年にヨーロッパで販売を開始すると、翌年には日本でも発売。その実用性の高さから、ビジネスパーソンや学生に受け入れられ、現在までに世界で19億本を販売するというヒット商品となりました。
フリクションは、どのような背景から誕生したのでしょうか。その30年以上にも及ぶ誕生までの歴史と、“消えるペン“という市場を切り開いた販売戦略について紹介します。
「消える」秘密はインキにあり
実は「フリクション」の発売前にも、“文字を消せるペン”に挑戦した筆記具メーカーもありました。しかし、消し跡が残ってしまったり、時間が経つと消せなくなったりするなど、使用条件を選ぶ商品が多く、あまり大きな市場にはなっていなかったのです。
では、それまでの“文字を消せるペン”と違い、フリクションはなぜ文字をきれいに消すことができたのでしょうか。
その秘密はインキにあります。フリクションに使用されている独自の「フリクションインキ」は、60℃以上の温度になると色が消え始め、65℃になると完全に消えます。そのため筆跡を専用ラバーでこすって摩擦熱が生じると、インキの色が無色透明になります。温度変化を利用してインキを無色にするので、消しカスも出ません。
インキには、特殊なマイクロカプセルが含まれており、これが色素の役割を果たしています。カプセルには発色剤(A)、発色させる成分(B)、変色温度調整剤(C)という3種類の成分が含まれています。常温ではAがBと結合して発色しますが、熱を加えるとCが働いてAとBの結合を邪魔し、AとBの成分が分離して色が消えるのです。
このフリクションインキが誕生したのは2005(平成17)年のことですが、そのルーツはそれより30年以上も前にさかのぼります。
いつかは筆記具に……色の変わるインキを阻む壁
時は1970(昭和45)年。当時、研究部(現・開発部)に所属していた研究者が、一夜にして色が変わる紅葉を見て、「この魔法のような変化をビーカーの中でも再現したい」と思ったのが、フリクションの歴史のはじまりです。
研究チームは試行錯誤を重ね、1975(昭和50)年に温度変化で色が変わる「メタモインキ」の開発に成功しました。メタモインキは、3つの成分を1つのマイクロカプセルの中に入れ、その結びつきが温度によって変化することで色が変わるというものです。この原理は、基本的に現在のフリクションにも受け継がれています。
メタモインキを使った世界初の商品は、1976(昭和51)年に発売された「魔法のコップ」でした。温度変化によってコップに描かれた絵が変化する紙コップで、冷水を入れると、コップの花咲かじいさんが桜の花を咲かせるというものです。
その後、1984(昭和59)年には、ロス五輪の入場チケットの印刷にメタモインキが採用されました。この入場チケットは指先でこすると変色し、偽造防止に効果がありました。
さらにその翌年、子ども向けの玩具「メルちゃんまほうのフライDEこんがり」を発売。これはメタモインキの効果により、冷水によって玩具のフライがきつね色になるというものでした。
こうしてメタモインキを使った商品が次々と生まれていきました。しかし、当時の技術ではメタモインキを筆記具に利用することは困難でした。なぜなら、… 続きを読む
株式会社パイロットコーポレーションについて | |
■ 事業内容 | 筆記具等のステイショナリー用品、玩具、リング等の貴金属アクセサリー、セラミックス部品等の製造、仕入れ及び販売 |
■ 設立年月 | 2002(平成14)年1月 ※創業:1918(大正7)年1月 |
■ 本社所在地 | 〒104-8304 東京都中央区京橋2の6の21 |
■ 資本金 | 2,340,728,000円 |
■ 従業員数 | 2,496名(連結)/1,061名(単体)(平成27年12月31日現在) |
■ ホームページ |
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