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リーダーに聞く
2019.02.12

会社社長が「石」で世界を救うベンチャーに転職した理由

株式会社TBM 取締役COO 坂本 孝治 氏

会社社長の立場を捨て、「石」のベンチャー企業幹部へ

 水や樹木、石油は、人類の生活を支える貴重な天然資源ではあるが、それゆえに消費量も多く、枯渇の危険が度々叫ばれている。それゆえ世界中の企業は、限りある資源の使用を削減するため、環境負荷が低い代替素材に目を向けている。

 そうした代替素材の1つに、日本のベンチャー企業「株式会社TBM」が開発した「LIMEX(ライメックス)」というエコな新素材がある。

 LIMEXは、紙やプラスチックの代替として開発された素材だ。紙を生産する際には樹木と水が必要になるが、LIMEXの生産にはそのいずれもほぼ使用しない。プラスチックの生産時に必要になる石油由来の樹脂も、重量比で従来の半分程度に抑えられるという。

 その秘密は、LIMEXのメインの原材料「石灰石」にある。石灰石は世界各地に埋蔵量が多く、日本国内でも100%自給できる数少ない資源である。しかも、高効率でリサイクルできる点も特徴となる。

 TBMは2015年に、宮城県にLIMEXの生産拠点をオープンすると、現在はLIMEXの普及のため、対外戦略を積極的に進めている。2018年8月には凸版印刷、大日本印刷、伊藤忠商事などと資本・業務提携を締結し、世界に向けて事業を拡大している。

 この対外戦略を推進しているのが、元伊藤忠の坂本孝治取締役 COO (最高執行責任者)だ。 坂本の前職は、ヤフージャパンの米国法人である「YJ America」の社長職。2016年にTBMの社外取締役に就任すると、2018年には現職一本に絞っている。

 会社社長という立場を捨て、ベンチャー企業の幹部へと転職した坂本の行動は、一見すると不思議に見えるかもしれない。しかし、彼の人生を紐解くと、むしろ必然の選択肢のようにも受け取れる。

 

砂漠の国に生まれた少年が描いた夢

 坂本は1967年、石油のプラントエンジニアの父親が働いていたサウジアラビアで生まれた。当時はアラビア語を話していたが、今ではすっかり忘れてしまった。

「今やサウジでの経験は、砂漠の記憶がぼんやり浮かぶ程度ですが、私が『日本と海外をつなぐ仕事がやりたい』と思うようになった原点は、間違いなくここにあると思っています」

 小学生の時、日本へ引っ越す。文化や勉強でのギャップで苦しんだ時期もあったが、得意な理科や算数で楽しさを見出したこともあり、日本に馴染むまでにそれほど時間はかからなかった。

「特に自由研究が大好きでした。日本に帰った最初の夏休みに、傘の裏側にアルミホイルを貼って、水の管を巻いて、太陽熱で50度くらいのお湯をつくる装置を作りました。それが市長賞を取り、うれしかった記憶があります」

 大学は早稲田大学理工学部のコンピュータコースに進んだ。しかし、学校での勉強やキャンパスライフのことはほとんど覚えていない。友人の叔父の会社で、ひたすらアルバイトに精を出していたからだ。

「その会社はソフトウェアを開発していて、私はずっとプログラムを書いていました。当時はCOBOLという言語が主流で、業務用の会計システムや入出庫管理などの社内システムを作っていました。自分の得意なジャンルで、苦労せずお金を稼げた訳ですから、楽しくて仕方がありませんでした」

 就活のシーズンになると、当時は売り手市場だったこともあり、理系の学生は引っ張りだこだった。坂本はOB訪問で先輩たちとふれ合ううちに、海外で仕事をする商社への関心が高まっていき、1990年、伊藤忠商事株式会社に入社する。

 

インド人にびっくり

 「海外の仕事」という期待を胸に抱いて商社の門を叩いた坂本だったが、最初に配属されたのは、社内のIT部門である情報システム部だった。坂本はがっくり肩を落とした。

「とにかくショックでした。当時はプログラムを書いていた経験のある人が少なかったので、当然といえば当然なんですが、私としては営業として海外にどんどん出ていってバリバリ働きたかったんです。他にも希望部署にはエネルギー、自動車、宇宙とも書いていたんですが、全滅です。『いきなり情報システムかよ!』と投げやりな気持ちになりました」

 坂本は先輩に「辞めたい」と相談をもちかけた。先輩からは「結果を出せば移れるから」となだめられ、何とか情報システム部に踏み止まった。その間、何度も営業部への転属を申し出ていると、やっと6年後にアメリカのシリコンバレーにあるサンマイクロシステムズへの出向が命じられた。

「今はオラクルに買収されましたが、当時のサンは今のグーグルのような存在で、世界ナンバーワンのIT企業でした。世界中から最高レベルの技術者が集まっている中で勉強できることになるため、出向を聞いた時はとてもうれしかったことを覚えています」

 ところがここに、思わぬ伏兵が待ち受けていた。… 続きを読む… 続きを読む

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坂本 孝治(さかもと こうじ)
新卒で伊藤忠商事に入社後、エキサイト株式会社に転籍、取締役として上場を経験した後、代表取締役に就任。その後ヤフージャパン株式会社に転職し、ECや課金サービスの責任者を担った後、ヤフージャパン株式会社の100%子会社をアメリカに設立し、社長に就任。シリコンバレーでは世界中のベンチャーが集まり、世界中の市場に挑戦する姿を数多く見た中で、日本のベンチャーが世界に挑戦し、世界市場で活躍する事に、自身も挑戦したいと考え、TBMに入社。社外取締役を経て2018年6月からTBMに専念。

株式会社TBMについて
■ 事業内容 LIMEX及びLIMEX製品の開発・製造・販売
■ 設立年月 平成23年8月30日
■ 本社所在地 〒104-0061 東京都中央区銀座2-7-17-6F
■ 資本金 91億9,480万円(資本準備金を含む) ※2019年1月時点
■ 従業員数 95人
■ 業種 製造業
■ ホームページ

https://tb-m.com/

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