トレードマークのハットを被り、ダメージジーンズ、黒のTシャツ、ネイビーの柄物ジャケットで現れた松村厚久は、まるでミュージシャンかファッション誌のモデルのようだ。彼こそ逆風下の外食業界で、既存店前年比売上高100%超の成長を続ける株式会社ダイヤモンドダニングの代表取締役社長である。人を惹きつける天性の魅力と、溢れる情熱、独創的なクリエイティビティを備え、業界の常識を打ち破り続けるカリスマ経営者、しかし、その光の裏側で、松村は若年性パーキンソン病という難病と闘っていた。

 

起業の原点は震えるほどの羞恥を味わった10歳の体験

 高知県高知市で鉄工所を経営する父親と雑貨店を営む母親の元に育てられた松村は、自然の中を駆け回る活発な少年だった。そんな松村の心に、今も抜けない棘のように刺さっているのが、小学5年のときに体験した小切手事件の記憶だ。

 「あるとき母親から塾の月謝代として5,000円と書いた紙きれを渡されました。先生に手渡すと『これはお金じゃないから受け取れない』と言われてしまいました。そのときの恥ずかしさたるや、もう体が震えるほどでした。急いで家に帰り母親に抗議すると『小切手は立派なお金だから。何も恥ずかしいことはない』と逆ギレされました。結局、家計が苦しく手元に現金がなかったんですね。そのとき思いました。二度とこんな思いをしたくない。そのためにお金を稼がなくちゃいけないと」松村の起業にかける情熱は、この事件で火が点いたといっていい。

 大学進学を機に上京。新生活を謳歌する中、合コンで知り合った女性と恋に落ちた。しかし、幸せな日々は長く続かずフラれてしまう。その女性が忘れられず、もう一度会いたいとの思いから、デートでよく訪れたサイゼリヤでアルバイトをはじめた。今でこそ全国規模の超有名チェーンだが、当時はまだ千葉と東京で数店舗を展開する“安くておいしい”地元のイタリアンレストランだった。

「だいたい僕の原動力って、いつも動機が不純なんですよ。このときも、きっかけは彼女に会いたいって気持ちだけでした。でも、働きはじめたら仕事がおもしろくなってきて。数か月後、店で彼女と再会したときは、もうどうでもよくなっていました。仕事で一番うれしかったのは、店を訪れたお客さまが『おいしかった』『本格的な味だね』『また来るよ』と笑顔で声をかけてくれることでした。飲食の仕事って、こんなにも人を幸せにできるんだ、これって自分の天職かもしれないと思いました」

 サイゼリヤで4年間働き、正社員の誘いも受けたが辞退した。「おいしい料理を安価で提供するコンセプトは素晴らしいのですが、常にコストを気にすることに窮屈さを感じたんです。将来は、飲食店を経営したいけど、その前にドーンとお金を掛けるエンターテインメント・ビジネスを体験したいと考え、当時全盛だったDISCOを運営する会社に就職しました」

 

バブルの饗宴に刺激を受け、企画力を磨き、29歳で独立

 六本木の超有名DISCOを何店舗も手掛ける日拓エンタープライズに入社した松村は、ユーロビートが鳴り響くフロアで、人間の欲望が塊となって膨れ上がる姿を、連日目の当たりにし、その刺激を血肉に変えながら働いた。

 熱狂の日々は、1991年のバブル崩壊で幕を閉じる。夜の六本木から人が消え、DISCOはゴージャスな張りぼての空間に変わってしまった。しかし、松村は、指をくわえて残骸の前で佇んでいるような人間ではない。人が来ないなら、来たくなる仕掛けをつくればいい。頭をフル回転させて企画を練り、人脈を駆使して、自らの手で再び熱狂を起こした。「お見合いナイト」「ボディコンナイト」「ビキニナイト」など、斬新なイベントを企画してテレビ局や雑誌社に売り込み、取材を取り付けて集客につなげた。

 しかし、時流という怪物には逆らえなかった。1995年、… 続きを読む

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松村 厚久(まつむら あつひさ)
1967年、高知県出身。2001年に1号店「VAMPIRE CAFE」をオープン。2007年、大証ヘラクレス(現NASDAQ)へ上場。2008年には外食産業に最も影響を与えた人物として「外食アワード2007」を受賞。2010年、飲食業開発の“100店舗100業態”を達成。2015年、東証一部へ市場変更し、ウエディング事業に参入。これまでにグループ全体で180業態を開発、約430店舗を出店(2017年6月1日時点)

株式会社ダイヤモンドダイニングについて
■ 事業内容飲食事業(居酒屋・レストラン等)の経営・企画・運営、アミューズメント事業(ビリヤード・ダーツ・複合カフェ等)の経営・企画・運営、ウエディング事業
■ 設立年月1996年3月
■ 本社所在地東京都港区芝4-1-23 三田NNビル18階
■ ホームページ

http://www.diamond-dining.com/

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