Bizコンパス

IT戦略を語る
2015.05.14

迷わず『太いソリューション』を選ぶことが基軸戦略

日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO 喜多羅 滋夫 氏

 『太いソリューション』の選択を基軸戦略に掲げ、SAPやAWS、Office365などを積極的に導入し、業界トップ企業の改革に挑むCIOの喜多羅滋夫氏がIT戦略を語る。

 

「モグラ」になって極めた成果を、ITを使ってグループへ広げたい

―― 御社の事業概要についてご紹介をお願いします

 主な事業としては、チキンラーメンやカップヌードルなどの即席麺事業と、冷凍食品やチルド食品などを手掛ける低温事業があります。また、コーンフレークや菓子、乳酸菌飲料などをグループ会社で手掛けており、こうしたグループ全体の経営戦略を策定・推進し、各事業会社のサポートを行っているのが日清食品ホールディングスです。

―― 新しい商品が次々出ては消えていく即席麺市場は、相当な経営スピードが求められると思いますが、そのビジネスを支えるITに求められる要件とは何ですか

 社内では「モグラになれ」という言葉がよく使われます。これには「自分の専門分野を徹底的に掘って掘って極めろ」という意味が込められています。これまで弊社は、このやり方を貫いてきましたが、近年、商品数やブランドが増え、組織が大きくなる中、モグラであるがゆえの課題が出てきました。最大の課題はオペレーションの属人化です。たとえば、同じ人が同じ仕事を何十年も続けてきたため、その部署ではスムーズに業務を回せますが、海外で同様の問題が発生すると国内と同じスピードで対処できないのです。

 弊社は、2025年に海外売上高比率50%を目指しています。海外展開を加速するには、属人化により暗黙知になっていた情報を、社内全体で共有できる環境が不可欠です。IT部門に求められているのは、グループの中の情報を適切に共有・管理し、そこからビジネスのサイクルを速く回せる環境を整えることです。そのために、今、我々が取り組んでいるキープロジェクトが勘定系ホストのERPへの移行です。

 

CIOとして入社し、頓挫しかかっていたERPプロジェクトを立て直す

―― 長年使い慣れた業務のプロセスを、ERPの標準フォーマットへ置き換えるのは、大変だったのではないですか

 私は、日本のメーカーの強みは“ものづくり”にあると考えています。各メーカーは“ものづくり”を追求することで、コストからクオリティ、イノベーションまで、あらゆるものを磨き上げてきました。この“ものづくり”のプロセスが、ERPの目指す標準化という概念になじまない部分が多いことは、私自身強く感じています。特に難しいのは購買から生産にいたるプロセスで、協力会社ごとに定められた細かな取引条件などを標準フォーマットに当てはめようとすると、経営的にマイナスになるという課題でした。

 こうした課題をクリアするため、我々は各担当者が抱えていたExcelのシートやAccessのデータベースを徹底的に掘り起こしました。そして、すべての業務要件を是々非々で洗い出し、ERPの枠組みに組み込んでいったのです。正直な話、それほどきれいに標準化ができたとは思っていません。生産に関わるプロセスは、ある意味競争優位の源泉ですから、標準化にこだわり過ぎ、その優位性を失うわけにはいかないので、そこは注意深く進めました。

 一方、いわゆる財務や経理、会計などのプロセスは、できる限りグローバルスタンダードに合わせることを基軸としてきました。なぜなら、財務はいずれ国際会計基準(IFRS)に切り替えなければならないことが、すでに見えているからです。

―― ERP導入の準備は、いつ頃からはじめられたのですか

 プロジェクトのスタートは、2011年6月です。当初、大手ITベンダーのソリューションで進めていましたが、細かくカスタマイズ対応したために予算規模が膨れあがり、マネジメントからストップがかかりました。その見直しの過程で、経営全体を俯瞰してITを指揮するCIOが必要との決断が下されました。その方針に基づき、社内初のCIOとして採用されたのが、私です。

―― では、喜多羅さんが入社した当初は、システムは混沌としていたのですね

 そうですね。現場は日々の運用に巻き取られ、情報システム部内は、あるエンジニアが休暇を取ると、EDIが綱渡りの運用になるというくらい深刻な属人化が散見されました。これではあまりにも業務継続のリスクが大きいということで、外部の人材を入れて短期的な対応をはかりながら、内部で人材を育てる長期的な対応を進めました。

 暗礁に乗り上げていたERPは、舵を切り直しSAPでいく決断を下しました。グローバルスタンダードであるSAPは、導入企業が多く、インプリメンテーションの情報など、さまざまなリソースが豊富にあることが導入の決め手でした。IT業界は移り変わりが早いので、SAPが時代遅れになるリスクもありますが、その際にも、次に何を選ぶべきかを示す事例が豊富に出てくると予想されるので、そこまで見越してSAPを選びました。

 導入に向けては紆余曲折ありましたが、最終的に社長が「グローバルで成功するために絶対これをやり遂げなければならない。それは、いくらコストダウンできるとか、そういう次元の話ではなく、会社の基幹としてやらなくてはならない」と宣言し、各部門に働きかけてくださいました。このトップダウンが、プロジェクトのクリティカルサクセスファクターになったと思っています。

 

迷わず「太いソリューション」を選ぶことが基軸戦略

―― 御社では、AWSを積極的に採用する方針を示していますが、その決断に至った背景を教えてください

 これまで弊社では、複数のサーバを社内のマシンルームで管理していました。Webサイトも、分散してホスティングしていたため全体を管理できませんでした。その改善策を検討していた時、たまたま「AWSを使ってみませんか」というお話をいただきました。試しに使ってみた結果、予想以上にメリットが大きいと感じました。1点目は、社内に資産を持たなくていいこと。2点目は、新たなコンピュータリソースの追加がスピーディーにできること。その2点を評価し、AWSを導入しました。

―― 実際に運用を始めてから気付いたことはありますか

 導入後に気付いた最大のメリットは、セキュリティです。クラウドというと、皆さん「社外にデータ置いて大丈夫か」「どう管理されているかわからない」などと言いますよね。じゃあ、社内のサーバールームはどうなのかという話です。弊社の場合、データセンターというよりマシンルームとしか呼べないレベルで、入退室管理はありましたけど夜間や週末に監視している人間はいませんし、閉じたネットワークといいながらオペレータがデータを持ち込んだり、外部のEDIとデータの出し入れもあるような状況でした。

 やっぱり餅は餅屋なんですよ。要は、社内でセキュリティ対応を続けることが、24時間365日、我々に代わってセキュリティを考え最新技術で対抗してくれる会社に勝るという合理的な理由が見つからなかったということです。

―― クラウドにもいろいろありますが、なぜAWSなのですか… 続きを読む… 続きを読む

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喜多羅 滋夫(きたら しげお)
1965年、大阪府出身。1989年P&G入社、システムアナリストとしてスタートし、市場調査、マーケティング、営業支援などに関連するシステム開発・運用プロジェクトに従事。2002年フィリップモリスジャパン入社、2013年4月日清食品ホールディングスにCIOとして入社、以降現職。
◎情報収集方法
業界を限定せずおもしろい人、自分とバリューセットが近い人と話すこと
◎コミュニケーション方法
その人が何に悩み、どうなりたいか、何が強みで弱みか、理解した上でコミュニケーションすることを目指す
◎ストレス解消法
汗をかくこと(ランニング、マラソン)、歌を歌う、自分の過去を振り返りポジティブサイドを思い出す

日清食品ホールディングス株式会社について
■ 事業内容 持株会社として、グループ全体の経営戦略の策定・推進、グループ経営の監査、その他経営管理など
■ 設立年月 1948年9月4日
■ 本社所在地 東京都新宿区新宿6-28-1
■ 資本金 251億2,200万円
■ 従業員数 8,357名(連結)
■ 業種 製造業
■ ホームページ

http://nissin.com/

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