あなたの商標は大丈夫?知的財産権の基本ルール

赤の他人が商標を勝手に出願、無視して大丈夫?

2017.03.29 Wed連載バックナンバー

 2017年1月、お笑い芸人ピコ太郎の「PPAP」が無関係の第三者によって商標出願されるというニュースがビジネス界に衝撃を与えました。出願した人物は、ピコ太郎が所属するエイベックス株式会社とは全く無関係の人物であり、取引関係も一切ありません。現在においても、この商標について特許庁による審査待ちの状態となっています。

 この出願によって、ピコ太郎はPPAPを歌うことができなくなるのでしょうか?今回の記事では、経営者が注意するべき商標登録の仕組みについて解説します。

 

どうして赤の他人が商標を出願することができるのか

 商標とは、会社のトレードマークを登録する制度です。不二家のペコちゃんのマークや、ヤマトホールディングスの黒猫のマークが代表例です。商標を取得するためには、まず特許庁に書類を出願して、その後に手数料を支払い、さらに6カ月ほど待つと、正式に特許庁で登録されます。特許庁で登録されることによって、初めて法律効果が発生します。

 ピコ太郎の商標を出願した人物は、商標を出願したのみであり、2017年3月時点では手数料を支払っていません。このまま手数料を支払わなければ、審査の段階に進むことなく却下されます。つまり、このままであれば、エイベックスが何か対策を取る必要はありません。

 仮にこの人物が手数料を支払ったとしても、特許庁の審査を通過することはありません。商標法第4条には、「他人が既に使用している商標を先取りとするような出願は拒絶する」というルールが定められています。いわゆる「先取り出願」です。今回の件においても、先取り出願であることは明らかなので、特許庁の審査によって拒絶されます。

 ただし、特許庁の判断ミスにより、先取り出願であるにもかかわらず、商標が登録されてしまうケースもあります。法律には「先取り出願は拒絶する」というルールが定められているものの、実は特許庁が「この申請は先取り出願である」ということに気が付かないことが、実際にはあり得ます。

 PPAPのようにテレビで頻繁に流れている商標であれば、特許庁の職員がすぐに気が付くことができます。しかし、まだCMが開始していない商標や、ホームページに未掲載の商標については、特許庁がリサーチしても見つからないことがあります。特許庁が「先取り出願である」ということに気が付かなければ、そのまま商標が登録されてしまいます。

 しかし、もし特許庁のミスによってPPAPが登録されたとしても、エイベックスに被害はありません。ピコ太郎は、第三者が出願するずっと以前からPPAPを使用しており、世界的に大ヒットさせたという実績があります。

 このような場合、商標法第32条により「今までどおりPPAPを引き続き使用することができる」という権利が認められます。これを「先使用権」と言います。「先に使用していた場合には、引き続き使用することができる」という意味の権利です。

 以上の通り、赤の他人が商標を出願しても、ピコ太郎やエイベックスの「権利」に被害はありません。

 

赤の他人による出願を無視することはできない

 それでは、赤の他人が商標を出願しても、全く損害は無いのでしょうか?実は、赤の他人が商標を出願しても「法律的には」被害はありませんが、… 続きを読む

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田中 靖子

田中 靖子

法律家ライター

東京大学卒業後、2009年に司法試験に合格。弁護士として知的財産業務、会社設立等のビジネス関連の業務を扱う。現在は海外に在住し、法律関連の執筆や講演を行っている。

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