FinTech(金融技術)の動向を特許情報から読み解く(第1回)

道行く人がATMに!?Appleが目指すフィンテックの形

2016.05.13 Fri連載バックナンバー

商取引は進化したものの、金融技術が停滞

 インターネットは商取引を大きく変えました。インターネット(TCP/IPの通信)で成約した電子商取引の市場規模は、2000年には1兆円に届きませんでしたが、2014年には196兆円にまで成長しています(経済産業省「電子商取引に関する市場調査」)。

 この電子商取引を支えているのは、情報技術(IT)です。Webサーバーと、リレーショナル・データベースと、負荷分散のための並列化の技術は、電子商取引による過酷な要請によって鍛えられました。数台の高価なメインフレームではなく、数百万台の廉価なサーバーを、データ・センターで運用する技術が生み出されたのです。

 しかも、商取引用のシステムですから、商品や値段の変更も頻繁で、データの消失が許されず、在庫とも一致させなければなりません。特に、売れない時期には小さく、売れ始めたら大きくというスケーラビリティー(拡張可能性)への対応は、UNIX系のオープンシステムを活用するデータ・センターの得意とするところです。また、顧客にぴったりの商品を自動的に勧めるレコメンドシステムなど、独特な技術も進化しました。

 このように商取引の電子化は進みましたが、この商取引を支える金融の技術は、停滞気味です。金融機関の基幹業務はメインフレームであり、素早いプログラムの変更や、低負荷の時間帯を低コストで運用するような柔軟さへの対応が難しいのです。銀行口座間の振込もTCP/IPではない従来型の通信プロトコル(全銀ネット)で、オープンシステムの低コスト化による果実を、得ることはできませんでした。

 そこで注目されているのが、「FinTech(フィンテック、金融技術)」なのです。

 

AppleやGoogleも注目するフィンテックとは

 電子商取引が成熟した今、次のフロンティアは金融サービスのIT化です。金融サービスに最先端のITを適用することが、FinTechなのです。

 FinTechは、Finance(金融)とTechnology(技術)を一体化させた新しい造語です。FinTechで注目されている分野は3つあります。 [1] 新しい決済サービス、[2] ロボットアドバイザー(人工知能による資金運用の相談)、[3] 入出金(家計簿・財務)記録の自動化と連携です。

 FinTechは、異なる3つのグループから生み出されています。第1グループは、国内外のベンチャー・新興企業で、家計簿・財務会計のシステムや、人工知能を使った資産運用の自動案内などを開発しています。第2グループは、世界中の多数の企業が集まったコンソーシアムです。国内外の大手企業が集まり、課題の解決や技術標準化に取り組んでいます。

 見逃してはいけない第3グループが、Apple, Google, Amazonというオープンシステムの運用実績と、独自のプラットフォームを持つテクノロジー企業です。これらテクノロジー企業は、顧客満足度の高い決済サービスとは何かを研究し、金融に関連する特許を取得し始めています。

 今回は、その第3グループのAppleが特許を取得した、新しい決済サービスを紹介します。制度面でのハードルがありますが、将来採用される可能性は十分にあります。

 

iPhoneユーザーがATMになる?

 Appleが取得した特許とは、日本国特許第5810217号「アドホック現金支払いネットワーク」のことです。この特許技術を使うことで、現金を求める人と現金を渡す人が、iPhoneを使うことで、ATMを介さずに現金が授受できます。

 しかし、ATMなしでどのようにお金のやり取りを行うのでしょうか? … 続きを読む

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鈴木 健治

鈴木 健治

特許事務所ケイバリュエーション 所長 弁理士

経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員などを歴任。著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。取引先の経営者・担当者にビジネス書の書評をお届けしている。公式サイト:http://kval.jp/

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