なぜ今も残る?京都花街の伝統的ビジネスシステム(第7回)

「一見さんお断り」は、京都花街を支える大事な制度

2015.03.20 Fri連載バックナンバー

 3月に入り、啓蟄(けいちつ)も過ぎるとやはり暦(こよみ)の通り、ひと雨ごとにじわじわと気温が上がってくるように感じられる今日この頃の京都です。

 そして、3月は卒業のシーズンです。私が教鞭をとる女子大でも今年もたくさんの学生たちが巣立っていきました。実は私のゼミでは卒業生に懇親会でお座敷デビューをさせるのを恒例にしています。学生たちも多くが京都以外の出身です。せっかく京都で学んだのですから、リアルな京都の文化に親しんでほしいと思いますし、一生懸命に働く芸舞妓さんたちを現場で見ることも、一種の就業体験になると考えているからです。

 お座敷を体験して、学生たちは、自分より年下の舞妓さんたちの所作や立ち居振る舞いの美しさに感じ入り、その自然な接客態度に驚きます。そして、表情を一変させて真剣に芸事を披露する姿に感動します。磨かれた専門技能を発揮するプロフェッショナルの姿勢に臨場感を持って接するのです。しかもそれを自分たちと年齢的に差のない、あるいはさらに若い女の子たちが体現しているのです。

 そのようなことがなぜ可能なのか、この連載を通じて解き明かしてきましたが、今回と次回では、そのまとめとして、人材育成のお話を交えながら、京都花街のビジネスの仕組みとそのブランド価値の創出について、お話したいと思います。

 

取引制度としての「一見さんお断り」

 まず、「一見さんお断り」についてです。花街と聞いてまず連想するのは舞妓さんや芸妓さんの姿ですが、しきたりとして思い浮かべることは、やはり「一見さんお断り」という慣行ではないでしょうか。一見さんお断りの壁を越えるためにはお茶屋さんを利用している顧客の紹介が必要です。そして、顧客に連れられてお座敷に行き、お茶屋さんからOKが出ると、その後自分も顧客になることができるのです。

 紹介者がないお客さまを拒む取引の流れから、一見さんお断りは敷居が高い、取引制度として非合理だと思われるかもしれません。しかし、一旦顧客になると、花街ではお財布は不要、支払いは後日清算が基本で、たとえ二次会でもお茶屋さん経由なら同様です。清算をいつするのかといったことに煩わされることなしに、スマートに接待することが可能な仕組みです 。また、お茶屋さん側からすれば、突然来られたらどこの誰か分からないので、その人の好みも分からず、引き受けるかどうか判断ができないという合理的な理由もあります。(そもそも、お茶屋さんは住み込みの娘さんもいる女所帯ですから)

 さらに、花街の一見さんお断りは、「宿坊」(しゅくぼう)という仕組みによって支えられています。これは同じ業種の人が同じ場所で鉢合わせをしないという仕組みです。

 たとえば、A銀行さんがある花街でBというお茶屋さんの顧客であれば、… 続きを読む

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西尾 久美子

西尾 久美子

京都女子大学現代社会学部教授

京都生まれの京都育ち。京都府立大学卒業後、民間企業勤務を経て、滋賀大学経済学部へ社会人入学。卒業後、神戸大学大学院経営学研究科博士課程へ進み、博士(経営学)を取得。京都女子大学現代社会学部准教授を経て、2013年より現職。著書『京都花街の経営学』(東洋経済新報社)『舞妓の言葉―京都花街、人育ての極意』(東洋経済新報社)『おもてなしの仕組み―京都花街に学ぶマネジメント』(中公文庫)。ホームページ『京都花街CMS』(http://kyotohanamachi.biz/)

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