リーダーが「孤独」であるべき理由(後編)

北極点を目前にしたリーダーが下した“ある決断”

2017.03.30 Thu連載バックナンバー

 ビジネスを成功に導くためには、仲間と団結、協力することが欠かせない。しかし、「仲間」や「団結」という言葉を強調し過ぎると、ただの「馴れ合い」集団になってしまう危険性がある。似たような考えの仲間だけが集まり、お互いに肯定し合うだけの環境であれば、組織は外部の知識や新しい発想を取り入れなくなるだろう。

 それを防ぎながら「自立した」部下を育てるためには、リーダーは組織の輪から一歩離れたところで「孤独」という客観性を保つことも手段のひとつである。

 そんな孤独なリーダーを貫いた人物のひとりが、ノルウェーの偉大な探検家として歴史に名を遺しているフリチョフ・ナンセンである。

 前回は、ナンセンをはじめとする探検隊が北極海調査探検の航海に出たものの、流氷に阻まれ、航海の大きな目標であった「北極点への到達」が不可能と判断すると、船から降り、ナンセンとそのサポート役の2人だけで、犬ゾリによる探検に切り替える決意をしたところまで紹介した。しかし、ナンセンの行く先には、さらなる大きな決断が待っていた。

 

北極上陸を決断をしたものの、部下はどうなるのか?

 探検隊のメンバーと別れ、ソリ探検で北極点を目指すことを決めたナンセンだが、入念な準備を済ませ、あとは船を残して出発するだけという時になって、自分の決断に押しつぶされそうな夜があったことを告白している。

 『今度ほどに追いつめられたことはなかった。最後の2、3日は午前3時半か4時半より前に眠ったことはなかった。これからの旅の準備ばかりでなく、船に残るものたちのことにも、心を配らなくてはならなかった。指揮と責任を他の人間にまかせなければならない。残る人たちへの注意も忘れてはならない。科学上の観察はいままでどおりつづけなくてはいけないし、他にもやるべきことがある……』(「極北」上下巻・福音館書店 刊・沢田洋太郎 訳)

 ナンセンは、自分の命がかかった探検を前にしても、船長として部下たちのことを心配しながら、今まで通りの仕事も行っていた。

 ナンセンがフラム号の乗組員を心配するように、乗組員たちもナンセンのことを思っていた。彼らは自発的に、リーダーであるナンセンの準備を手助けした。ある者は寝袋を縫製し、ある者は犬ゾリ用首輪のテストを行った。医師は自らの道具の中から小さな救急箱をこしらえ、包帯の巻き方などを丁寧に指導したという。

 乗組員たちが「ナンセンの成功=皆の成功」、ナンセンが「乗組員の成功=皆の成功」と、互いに捉えていたことが、よくわかるエピソードである。

 

北極点を目指す途中で下した決断

 1895年3月、ナンセンとそのサポート役であるヨハンセンは、フラム号に別れを告げ、犬ゾリで北極点を目指し、出発した。しかし、極北の自然は厳しく、数日も経たないうちに、ぬかるんだ氷原や、氷がぶつかり盛り上がった氷丘脈が次々と現れ、ソリを引くことが難しくなってしまったのである。

 てこずりながらソリを引き、少し歩いては休んで北上する毎日を繰り返した。氷や天気に振り回されている内に、ソリを引く犬たちも次々と弱り、ついには殺さなければならない時もあった。

 4月8日、当時の最高到達点である北緯86度4分に到達した時、ナンセンはある決断を下す。それは、… 続きを読む

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高島 ちなみ

高島 ちなみ

フリーライター

2012年より執筆活動を開始し、ビジネスコラム・グルメレポートなどを執筆。無類の図書館好き。趣味が高じて司書資格も取得。ライブラリアン・検索技術者として、WEB媒体向けのレファレンス支援も行う。

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