ノーベル賞経済学者に学ぶ、リーダーのための「意思決定」学(第1回)

意思決定に失敗するリーダーは直感を大事にしすぎる

2017.02.02 Thu連載バックナンバー

 ビジネスは意思決定の連続であり、リーダーは一日に何度も意思決定を行う状況に迫られる。その判断基準は、「直観を信じる」や、「分析結果に基づき判断する」など、人それぞれである。時と場合によって、その基準が変わることもあるだろう。

 しかし、人間が何かを判断する際には、人類共通の「意思決定のメカニズム」が存在する。そのメカニズムを理解できれば、より正しい判断をするために必要な対策を講じられるため、よりよい意思決定の助けとなる。

 ノーベル経済学賞を受賞した心理学者であり行動経済学者でもあるアメリカのダニエル・カーネマン教授は、著書「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?」(村井章子訳、早川書房刊)に、その「意思決定のメカニズム」をわかりやすく説明した。そのメカニズムとは、早い(ファスト)思考と、遅い(スロー)思考という、2つの思考である。

 2014年に発売され、今でもビジネスパーソンから支持を受ける同書を元に、意思決定の基本的なメカニズムについて説明しよう。

 

1ケタの掛け算と2ケタの掛け算の答えは違うところから出てくる

 まず、次の式を見てほしい。

 2×2=

 この式を見れば、2と2を掛ける演算式であると理解するのと同時に、その答えが「4」だと主観的に判断できる。

 このようにほとんど意識することなく、素早く判断している思考が、「ファスト思考」であり、同書および心理学上で「システム1」と呼ばれているものである。

 次に、以下の式を見てほしい。

 63×27=

 この式を見た瞬間に、2ケタの掛け算であることは簡単に理解できるが、先ほどのように同時に答えを浮かべることは、2ケタ掛け算に慣れた人でないと難しい。一般的な日本人が正確な答えを求めるためには、紙と鉛筆と筆算で解くための時間が必要である。これがスロー思考であり、「システム2」と呼ばれるものである。

 私たちのあらゆる意思決定は、このシステム1およびシステム2によって行われている。システム1は自動的に高速で働き、努力は必要ない。一方で、システム2は、複雑な計算など頭を使わなければできないものである。

 

怒りながらも、あえて礼儀正しく振る舞えるのはなぜ?

 この2つのシステムは、互いに影響しあって、人間の意思決定に関わっている。

 人間が目覚めているときは、システム1、システム2とも常にオンになっており、システム1は自動的に働き、システム2は出力を抑えた“快適モード”で作動している。システム1は、自動的に、印象、直観、意志、感触を絶えず生み出しては、その判断をシステム2に供給する。システム2が承認すれば、印象や直感は確信に変わり、衝動は意志的な行動に変わる。また、システム1で判断できない困難な場面では、システム2がかわりにその問題解決に当たる。

 上述の2×2の掛け算では、システム1の直感を、システム2が快適モードのまますぐさま承認している。一方で、63×27の掛け算では、システム1だけでは解決できないため、システム2が呼び出されている。

 システム2はさらに、システム1を常に監視する機能も有している。

 たとえば、怒っているときに礼儀正しく振舞うのは、こうした監視の働きによるものである。システム1は常にONになっているため、怒りを感じるシチュエーションで自動的に怒りの感情を生み出す。つまり、システム1は「制御不可能」である。しかし、システム2が監視していることによって、「怒りながらも礼儀正しく振る舞う」という問題解決を図ることができる。

 このようにシステム1のスイッチオフできないという欠点を、システム2がフォローするという相互作用が上手く働きシステムになっているのだ。

 

直感ではどうしてもミスジャッジしてしまう

 しかし、システム1にはもうひとつ大きな欠陥がある。それは、「バイアス」によるエラーがあることだ。

 バイアスとは英語で「偏り」を意味する言葉である。言葉で説明するよりも、有名な「ミュラー・リヤーの錯視」を見た方が理解しやすいだろう。

 上のような図が、ミュラー・リヤーの錯視である。この図を見た瞬間、システム1は、… 続きを読む

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峯 英一郎/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

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ライター・キャリア&ITコンサルタント

IT企業から独立後、キャリア開発のセミナーやコンサルティング、さまざまな分野・ポジションで活躍するビジネス・パーソンや企業を取材・執筆するなどメディア制作を行なう。IT分野のコンサルティングや執筆にも注力している。
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