ビジネスパーソンが知るべき世界の名言(第8回)

チャップリンが必要とした”勇気・想像力・金”の真意

2016.12.09 Fri連載バックナンバー

 映画黎明期に「喜劇王」として君臨したチャールズ・スペンサー・チャップリン。その功績は映画史上に燦然と輝くが、彼の幼少期はけっして恵まれたものではなく、孤児院や救貧院を渡り歩く日々を送っていたという。

 そのせいか、チャップリンの映画は笑いに溢れてはいるがストーリーはきわめて文学的で、悲劇性の強い作品も少なくない。名作『ライムライト』の中で、自身の人生を振り返るようにこう語っている。

人生に必要なのは、勇気と想像力と、ほんの少しのお金

 壮絶な人生にチャップリンが何を見たのか、彼の名言や映画の名台詞を通して探っていこう。

 

半浮浪生活から大スターへ!チャップリンの前半生

 1889年4月16日、チャップリンは父チャールズと母ハンナの次男として生を受ける。両親は巡業で地方を飛び回る舞台役者だったが、1歳の頃に離婚し、ハンナのもとで育てられた。5歳のとき、声が出なくなったハンナの代わりに舞台に上がって歌をうたい、大声援を受けた。いつしか舞台で活躍することを夢見るようになり、俳優学校に通い出す。

 しかしハンナの症状は重く、役者の仕事を続けることができなくなると心を患い、施設に収容されてしまう。同時期、父もアルコール依存症に苦しみ、病院に担ぎ込まれて急逝する。

 今日の食事すらままならないチャップリンは兄シドニーとともに孤児院に送られ、いくつもの孤児院や救貧院を渡り歩く。浮浪生活寸前という時期もあり、ガラス工・印刷工・床屋をはじめさまざまな仕事に就いて働いた。その傍らで、街でも人々の観察を怠らず、俳優として腕を磨きつづけていた。

 いくつかの劇団を経た1908年、喜劇の第一人者フレッド・カーノの劇団に入団。コミカルな動きとパントマイムで人気を博すと、たちまち看板俳優に成長した。劇団のアメリカ巡業を見た映画監督マック・セネットは1913年、自身の映画会社にチャップリンを招く。

 映画の撮影中、アイデアが煮詰まったセネットはチャップリンに「なんでもいいからおもしろい格好をしろ」と要求する。このときチャップリンが着ていったのが、山高帽にチョビ髭、ぴちぴちのスーツにだぶだぶズボン、ステッキにドタ靴というあの姿。「放浪紳士チャーリー」の誕生だ。

 この姿で演じたドタバタ喜劇が好評を博すると、チャップリンはチャーリーの役を洗練させていく。エッサネイ社、ミューチュアル社に移籍したのち、1918年にファースト・ナショナル社を立ち上げてワーナー・ブラザースと契約。『犬の生活』や『キッド』などヒット作を連発した。

 1919年、より自由な環境を求めて配給・制作を行うユナイテッド・アーティスツを設立。『黄金狂時代』『街の灯』『独裁者』といった代表作を制作し、『サーカス』で第1回アカデミー賞特別賞を受賞。ついに国際的大スターへと上り詰めた。

 

笑いに彩られた悲しみのストーリー

 チャップリンが少年時代を過ごした1900年前後は、ようやく映画が認知されはじめた時代だ。世界初となる映画らしい映画『月世界旅行』が公開されたのが1902年。アメリカでは1903年に初の西部劇『大列車強盗』が大ヒットして映画が普及しはじめていた。

 当時の映画はハッピーエンドが当たり前。喜劇についても内容はほぼ意味を持たず、身体を張ったアクション的なドタバタ劇=スラップスティック・コメディーが主流だった。ここにストーリーを持ち込んだのがチャップリンだ。それもペーソス(哀愁)に満ちたストーリーを。

 思いを寄せる娘をライバルに託して別れを選ぶ『サーカス』。裕福な紳士を偽って盲目の少女を助けるが、ホームレスであることが明るみに出るところで終わる『街の灯』。浮浪生活を送っていた主人公と少女が社会に受け入れられず旅に出る『モダン・タイムス』。主人公が亡くなる『ライムライト』。自ら「気に入っている」と語る『黄金狂時代』はキスで終わるハッピーエンドを迎えるが、チャップリンは音を加えたサウンド版でキスシーンをカットしている。

 コメディ部分についても冷静に考えると笑えないシチュエーションが少なくない。『黄金狂時代』において雪山で遭難し、靴や靴紐を食べる名シーンは寒さと空腹ゆえの幻覚で、状況はきわめて深刻だ。『モダン・タイムス』の工場で歯車に巻き込まれるシーンなどは工場労働に対する痛烈な皮肉で、現代のブラック企業批判以上の社会批判が読み取れる。

 ストーリーだけ追っていくとチャップリンの作品は喜劇というより悲劇に近い。映画=ハッピーエンドの時代にこうした作品が受け入れられたのは、全体が喜劇に包み込まれていたからだろう。

 なぜチャップリンは喜劇にこだわりつつ悲劇を描こうとしたのだろう?… 続きを読む

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長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

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