ビジネスパーソンが知るべき世界の名言(第7回)

なぜ本田宗一郎は「挑戦した失敗」を奨励したのか?

2016.11.27 Sun連載バックナンバー

 一代で「世界のホンダ」を築き上げた本田技研工業株式会社創業者・本田宗一郎。自転車にエンジンを取り付けた「バタバタ」からスタートした同社は、いまやF1から航空機、二足歩行ロボットまで、世界を代表する輸送機器メーカーへと成長した。

 しかしその黎明期、宗一郎は無謀とも思われる挑戦を繰り返し、数々の失敗に見舞われ、社はつねに経営危機にさらされていた。宗一郎は「挑戦」に対してきわめて印象的な言葉を残している。

猿が新しい木登り技術を学ぶために、ある試みをして落ちるなら、これは尊い経験として奨励したい

 なぜ宗一郎は挑戦にこだわりつづけたのか、彼の半生と数々の名言を通してその真意を探る。

 

修理工・本田宗一郎、バイクメーカーを起業する

 1906年、宗一郎は父・儀平と母・みかの長男として生を受ける。父は腕の立つ鍛冶屋で、自転車修理等も請け負っていたこともあり、幼少期より機械に慣れ親しんでいた。8歳ではじめて自動車を目にすると大いに感動し、後年、そのとき嗅いだオイルの香りを「いまも忘れられない」と述懐している。

 16歳で見習いとして東京の大手自動車修理工場・アート商会で奉公を開始。やがて社で随一の修理工に成長し、ただひとりのれん分けを許されて22歳で地元・浜松に支店を出す。

 浜松支店は瞬く間に数十人の従業員を抱えるまでに成長するも、修理業の未来に限界を感じ、製品の製造を模索する。宗一郎が目をつけたのはエンジンに欠かせないピストンリング。社に生産を提案するが、開発の難しさを知る経営陣は全員が反対。退社をも辞さない宗一郎を見かねて別会社としての活動を認め、宗一郎を社長として東海精機重工業が立ち上がった。

 宗一郎は寝食を惜しんで製作に没頭するも、満足のいくピストンリングが造れない。そこで浜松高等工業学校(現・静岡大工学部)に聴講生として入学し、アート商会で働きつつ勉学に励み、研究に没頭する。

 数万本の試作を経てようやく完成させると、選りすぐりの50本をトヨタに持ち込むが、検査基準に達したのはわずか3本。宗一郎はさらなる知識を得るために全国の大学を飛び回り、開発から2年を経てようやく納品に成功する。

 これにより東海精機は急成長を遂げるが、宗一郎はトヨタの資本参入を嫌い、また太平洋戦争や三河地震などの混乱もあって、あっさり退社してしまう。

 1年の休養を経た1946年、宗一郎は本田技術研究所を設立して所長に就任。長年の夢だったエンジンと、実家で手慣れていた自転車に回帰してエンジン付自転車・バタバタを製作すると、これがヒット。エンジンが不足するとエンジン開発に参入し、試行錯誤の末にA型自転車用補助エンジンを完成させる。

 さらに宗一郎は、フレームの不満を解消するために自社製作を開始。1949年、エンジン・フレームともにオリジナルのドリームD型の発表によって、ホンダは名実ともにバイクメーカーとなった。

 

宗一郎の「こだわり」と無謀な挑戦の数々

 社の経営はつねに危機的状況にあった。バタバタやA型が売れたとはいえ、それまでは倒産寸前で、売れたら売れたで次の開発に資金を投入してしまうため、いつも資金繰りに苦しんでいた。

 原因のひとつは宗一郎の「こだわり」だ。宗一郎はバタバタを造る際にも、ただフレームにエンジンを取りつけるのではなく、必ず一度エンジンを分解して調整した。A型エンジンも他社のエンジンをコピーすればすぐ軌道に乗るものを、わざわざ完全オリジナルで設計し、しかもダイキャストで製造した。

 ダイキャストとは、溶かした金属を金型に流し込んで成型する工法だが、金型は非常に高価で、よほどの大量生産でなければ採算が合わない。しかも宗一郎は日本でいち早くコンベヤーを導入し、ダイキャストとコンベヤーによる近代的な生産システムを確立しようとしていた。ところが当時のダイキャストは質が低くて手作業が必要で、結局流れ作業にならず、コンベヤーも役に立たなかった。どうして宗一郎はこんなことにこだわっていたのだろう?… 続きを読む

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長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

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