ビジネスから見る鉄道の世界(第2回)

SL復活の先駆け、大井川鐵道の「動態保存技術」とは

2015.06.26 Fri連載バックナンバー

 今、日本の各地で蒸気機関車(SL)の「動態保存運転」が活発に行われている。動態保存運転とは、一度引退した機関車を再度整備し、実際に乗客を乗せて運転すること。蒸気機関車の生きた姿は、見る者の郷愁を呼び起こし、また鮮烈な印象を与え、鉄道の魅力を再発見させてくれる。いつの時代にあっても蒸気機関車は、年老いた人にも、若い人にも、それぞれに魅力を感じることができる乗り物なのだろう。

 しかし、性能的に見ればどれもが前時代的な機構を有しているのが蒸気機関車であり、運転にも整備にも大変な手間がかかるのだという。そこで今回は、長く蒸気機関車の動態保存運転を続けてきた大井川鐵道を訪ね、現場で働く人にとって、蒸気機関車の保存とはどのようなものなのか、その意義と技術について、話を伺った。

 

時代に逆行する形で生まれた、大井川鐵道の動態保存運転

 静岡県の私鉄・大井川鐵道が、大井川本線での蒸気機関車の動態保存運転を開始したのは、1976年(昭和51年)7月9日のことであった。文化遺産としての価値が広く認められている今日とは異なり、蒸気機関車はエネルギー効率の悪い、前近代的な乗り物というのが当時の社会的な通念で、国鉄(現・JR)も1976年(昭和51年)3月に、蒸気機関車の(一旦ではあるが)全面的な廃止を実現したばかりであった。

 そのような時代でありながら、大井川鐵道は、蒸気機関車の動態保存運転を開始する。一見時代に逆行しているかのようにも見えるプロジェクトの遂行には、蒸気機関車を保存することの意義を認め、かつ、これを観光の目玉にしようとする思惑があった。これは当時の日本では初めての試みであったが、時代とともに鉄道ファンのみならず幅広く注目を浴びるようになり、今では蒸気機関車ならではの味わい深い風貌や走行を楽しむために、連日観光客が訪れている。大井川鐵道は、中小私鉄でありながら、蒸気機関車復活ブームの火付け役となったのだ。

 こうして多くの観光客に親しまるようになった蒸気機関車であるが、今日、その運転には大変な労力が費やされているという。

「蒸気機関車の動態保存運転を続けるにあたって、私たち車両の検査・修繕を行っている者は気を遣わなければいけないことがたくさんあります。機関車のコンディションを保ち、修理のための部品を確保しなければならないことはもちろんなのですが、それと同様に大切なことは、技術の伝承と人材の育成なのです」

 そう語るのは同社新金谷車両区で区長を務める中村敬吾さんだ。中村さんは、蒸気機関車だけでなく、大井川本線を走るすべての車両の整備・点検・修繕に携わっている。… 続きを読む

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池口 英司

池口 英司

鉄道ジャーナリスト兼カメラマン

1956年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。出版社勤務を経て、フリーランスの鉄道ジャーナリスト兼カメラマン。鉄道模型や旅行についても執筆。著作に『鉄道時計ものがたり―いつの時代も鉄道員の“相棒” (交通新聞社新書) 』、『国鉄形車両 事故の謎とゆくえ』、『国鉄のスピード史―スピードアップがもたらした未来への足跡 (のりもの選書) 』など。

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