戦略実行支援を通じた人・組織の変化への実感

危機感の薄い経営陣を、たった一言で変える方法

2015.01.16 Fri連載バックナンバー

「うぅ……」

 突然の嗚咽だった。二人きりの役員会議室。唐突に涙する常務取締役営業本部長の姿を目の前にして、百戦錬磨のエグゼクティブコーチもさすがに言葉を失った。

 エグゼクティブコーチとは、経営幹部など企業のトップ層に対し1対1で指導するコーチのこと。部下のモチベーションを高め、部下の信頼を勝ち取る評価・フィードバックや質問会議の進め方、戦略実行に対する幹部としてのコミットメントなどをコーチングすることで、トップ層の経営的視点や思考・行動を高め、組織全体の力もアップする効果が期待できる。

 今回は、我々富士ゼロックス総合教育研究所(以下、FXLI)のエグゼクティブコーチを導入したことで、問題を抱えていた組織が大きく変化した例を紹介しよう。なお、守秘義務の関係で内容には一部脚色を加えており、登場人物はすべて仮名である点を予めご了承願いたい。

 

「上がり」気分に浸る役員をどう変えるか?

 舞台となるのは、卓越した生産技術と顧客志向によって競争力ある某メーカー系列で、首都圏中心に展開する販売会社である。親会社の品質経営のDNAにもとづく提案型営業と物流システムによって経営基盤を築き、業界内で確固たる存在感を誇っている。と同時に、従業員を大切にする人間尊重の経営理念を標榜し、学生の就職希望ランク上位の常連で、社員の定着率も業界平均を上回っている。特に、育児と両立する女性社員が多くいることも働きやすい職場環境を物語っている。

 そんな地域密着の安定経営にここ数年、じわじわと暗雲が漂い始めてきた。主因は縮小する国内市場に加え、新興国からの安価な模造品の流入などによる競争激化にある。しかし、創業以来続く優良企業の危機感の薄さが、変化への抵抗や変革への躊躇を生んでいた。

 そこへ新社長に就任したのが、親会社から転身してきた岩田であった。岩田は持ち前のビジネスセンスとグローバル競争の中で研ぎ澄まされてきた経営視点によって、この優良企業が揺らぎつつある厳しい将来を見通した。今まで通用してきた営業・物流体制の強みや人を大事にする企業風土が、変革による生き残りに関してむしろ弱点に映った。

 一方、生え抜き役員5名の環境認識とは相当隔たりがあった。その代表格が来年の6月で勇退する常務の戸崎であった。役員陣は総じて実務での貢献を積み重ねた成功者だったが、社長は親会社から送り込まれる内部環境においては、会社員人生の頂点である役員に登用されると、いわゆる「いっちょ上がり」の気分に浸ってしまっていた。

 そこで岩田社長は一計を案じた。次年度から始まる新・中期経営計画立案と役員の意識改革を兼ね、創業以来初の役員研修を導入したのである。

 意思決定を仰ぐプレゼンテーションで、岩田社長が我々FXLIに尋ねた一言があった。… 続きを読む

全文(続き)を読む

続きを読むにはログインが必要です。

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

飯塚 圭介

飯塚 圭介

富士ゼロックス総合教育研究所 コンサルティング営業部 エグゼクティブコンサルタント

91年から某販売会社のマネジメント力強化に向けた企画・運営・定着フォローまでの仕組みづくりに10年間従事。01年から営業部門責任者として収益目標と人材育成の同時達成を担う。07年から戦略実行支援コーチとして、クライアント企業の「現状分析→企画設計→戦略実行支援→自走化支援」を数多く積み重ねて現在に至る。

このページの先頭へ
Bizコンパス公式Facebook Bizコンパス公式Twitter