経営者が知っておきたいビジネス理論入門(第72回)

ビジネスでは「もったいない」が命取りになる

2016.10.19 Wed連載バックナンバー

社運を賭けたプロジェクトに失敗したトクヤマ

 9月下旬、老舗の化学メーカー『トクヤマ』が、マレーシアに建設した工場を韓国企業に売却すると発表しました。トクヤマは、世間での認知度はそれほど高くないかもしれませんが、山口県で1918年に設立された社歴100年近くの東証一部上場企業であり、特に半導体用シリコンでは世界3大メーカーの一角を占める超名門企業です。

 このトクヤマが社運を賭けて、マレーシアに太陽電池用のシリコンの工場建設を決定したのが2009年。さらに、工事が始まる2011年までには第二工場の建設も決断します。この2つの工場建設に投資した費用は実に2,100億円に上り、売上高が3,000億円規模の同社にとっては、どれほど将来を託したプロジェクトかが見てとれるでしょう。工場は、第一工場が2013年に、そして第二工場は2014年に完成し、事業の成長を加速させる予定でした。

 ところが、最新鋭の工場は建設後本格的に稼働することなく、まもなく売却されることとなり、太陽電池用シリコンで世界3位のシェアを誇る韓国のOCI社にわずか100億円ほどで譲渡されたのです。

 このプロジェクトの失敗により、トクヤマは2015年3月期には650億円、そして2016年3月期には過去最悪の1,005億円と、2期続けて巨額の赤字を計上。2014年3月期にはおよそ2,300億円あった自己資本が2016年3月期には500億円ほどまで減少し、自己資本比率は40%から13%にまで落ち込み、財務体質の急速な悪化に見舞われることになったのです。

 

なぜ、トクヤマは2,100億円を投じた工場をすぐに売却したのか?

 それでは、どのような事情でトクヤマは完成後間もない最新鋭の大規模工場を売却したのでしょうか?

 その背景には、経営者の太陽電池の市況の読み違いがあったのです。

 トクヤマがマレーシアに大規模工場の建設を決定した2009年当時、太陽電池は次世代エネルギーとして注目を浴び、太陽電池用のシリコンは供給が需要に追い付かないほど、需給がひっ迫していました。結果として価格は1キログラム当たり60ドル以上と高い水準で取引されていたのです。

 ところが、この市場の過熱に目を付けた中国を始めとしたアジアの企業が、… 続きを読む

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安部 徹也

安部 徹也

株式会社 MBA Solution 代表取締役

株式会社 MBA Solution 代表取締役。2001年MBAを取得後、経営コンサルティングの事業で起業。近著に『最強の「イノベーション理論」集中講義』 (日本実業出版社)や『ぐるっとマーケティング』(すばる舎リンケージ)などがある。

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