朝ドラのヒロインに学ぶ(第2回)

吉本せい、一世一代の大勝負。花と咲くか月に陰るか

2017.12.06 Wed連載バックナンバー

 NHKの朝の連続テレビ小説『わろてんか』のヒロインのモデルである吉本せい。芸能プロダクション「吉本興業」の創始者として知られる彼女だが、もともとお笑いの仕事をやりたくてやっていたわけではなかった。

 せいの夫・泰三は、寄席通いにうつつを抜かし、家業を畳んでせいの実家に居候するグータラ亭主であったが、趣味が興じて「第二文藝館」という寄席の経営に乗りだした。当初は困惑して嫌々ながら夫を手伝うせいだったが、やがて天性の商才を発揮。経営を軌道に乗せる。

 ここまでは第1回で紹介したとおりだが、せいはさらにビジネスを大きくすべく、大きな賭けに出る。

 

大勝負の真の目的とは

 第二文藝館が人気を博した裏には、当時の時代背景も影響していた。日露戦争後、日本は工業国家への転身をはかる国策が加速。大阪の街にも工場が増え、全国各地から工場労働者が集まってきた。増え続ける庶民階層には、彼らの懐事情に合わせた安価な娯楽が必要だった。吉本夫婦の第二文藝館の低価格路線は、そんな時代に適合して繁盛していた。

 しかし、小さな寄席1軒だけの経営では、それ以上の飛躍は望めない。ドンキホーテやユニクロも、薄利多売のチェーン店化で大きくなった。夫の泰三が目指したのもそれだった。

 大正3年(1914年)、泰三は手始めに大阪福島の龍寅館を買収。さらに、似たような場末の三流寄席を次々に買収して、多角経営に乗り出した。しかし、商売堅調とはいえ薄利の自転車操業である。買収資金は借金に頼るしかなく、その金策や買収交渉はすべてせいに一任された。

 泰三は発想豊かな戦略家ではあるが、お人好しで気弱な性格は交渉事に向かない。また、お気楽なお坊ちゃん気質は、面倒で苦手なことを避ける傾向があり、「女の色気も使って、安くしてもらえ」と、せいに丸投げした。

 せいは結果的に、買収交渉を有利に成立させた。彼女にその才があったことは間違いない。泰三に人を見る目があったのか、それともただの無責任男か? 今となってはわからないが。

 吉本夫婦は寄席の買収を精力的に続け、翌大正4年(1915年)には大阪最多の寄席経営者になっていた。だが、同時に借金も膨大な額になっていった。… 続きを読む

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青山 誠

青山 誠

大阪芸術大学卒業。『坂野惇子 子ども服にこめた「愛」と「希望」』(KADOKAWA)、『戦術の日本史』(宝島SUGOI文庫)、『江戸三〇〇藩 城下町をゆく』(双葉新書)などの著書がある。また、アジア経済の情報誌「BizAiA!」で『カフェから見るアジア』、日本犬雑誌『Shi-ba』での実猟記などを連載中。
(編集:株式会社ネクストアド)

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