読んで学べる!大人のための歴史マンガ入門(第1回)

『蒼天航路』~前代未聞の曹操が躍動するネオ三国志

2015.04.24 Fri連載バックナンバー

 歴史マンガは、ときに史実を逸脱することがある。それはそうだろう。史料に忠実なマンガなど、おもしろくないどころか、マンガとして成立しない。歴史人物がデフォルメや誇張されて描かれ、粋なセリフをしゃべることで、はじめてマンガのキャラクターとして息を吹き込まれる。

 そうしたマンガ上のキャラクターが、ときに歴史上の人物をよみがえらせることがある。読者が「こんなスゴイ奴がいたんだ」「この人物をもっと調べてみよう」と、マンガの中で歴史人物を発見する瞬間だ。マンガは空想の羽を広げて歴史上の人物や出来事を描くことで、読者を史実とファンタジーの中間へと誘ってくれる。だからこそ、埋没していた人物に新たにスポットライトが当たったり、これまでの常識・定説が軽々とくつがえされたりする。それが歴史マンガの魅力であろう。

 本連載では「読んで学べる!大人のための歴史マンガ入門」と銘打ち、歴史に遊び、歴史の世界を案内してくれるマンガ作品を紹介していく。第1回目で取り上げる作品は、三国志を大胆な解釈で描き、“ネオ三国志”として今なお高い評価を得ている『蒼天航路』(講談社)。その主人公である曹操は、まさにこれまでの歴史ファン、三国志ファンの曹操像をくつがえすような人物であった——。

 

時代の英雄、ひとりの革命家としての曹操

 「三国志」の主役は誰? と訪ねられたら、あなたは何と答えるだろうか。「当然、劉備でしょ」「孔明じゃないの?」と思った人がいたとしても、その答えは間違いではない。今なお三国志ファンのバイブルとなっている横山光輝の『三国志』は劉備を主人公に据えており、多くの小説、ドラマ、ゲームが「劉備・孔明・蜀」を中核に描いてきた。そうした作品において、曹操は劉備や蜀に敵する“悪玉”“ラスボス”であり、彼の国・魏はさながら“悪の帝国”であった。

 しかし……と、このマンガはそんな状況に一石を投じる。曹操こそ中国史の中でひときわ強い光芒を放つ英雄なのではないか、三国志の登場人物は誰も曹操を超えられないのではないか——。本作は一貫してそう訴え続けている。

 『蒼天航路』は、曹操がまだ「阿瞞(あまん)」と呼ばれていた少年時代から、彼が齢66で死去するまでの生涯を追った一代記である。

 曹操は世界史の授業でもほとんど触れられることがないためか、その功績に比して知名度は極端に低い(知名度の低さは中国でもかわらない)。しかし彼の生涯は、ひとりの才覚によって時代を変革させた”革命家”そのものであった。群雄割拠の乱世を制したというだけではない。庶民に田畑の所有を認める屯田制のような新しい施策を次々に断行。文人としても優れた才能を発揮し、兵法書として有名な『孫子兵法』を編さんし、また自由闊達な文調を生んだ健安文学の立役者にもなった。日本史でいうと、織田信長千利休の業績をひとりで成し遂げたようなものだろうか。

 『蒼天航路』の曹操は、まさに時代の英雄、ひとりの革命家として描かれている。ただし、本作の曹操を言葉で表現するのは難しい。既存の価値観によらず、善悪の枠組みを超えた存在。ときに悠然と、ときに苛烈に事態にあたり、気まぐれな独断で自軍を勝利に導いたかと思えば、女色に溺れて自らの命を危険にさらす。「天より人/そう考えるのが俺であり、俺は俺でしかない」と曹操は自らを規定する。

 こうした曹操が放つ決めゼリフが、本作の魅力のひとつでもある。不作を嘆く家臣に対して… 続きを読む

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かみゆ歴史編集部

かみゆ歴史編集部

歴史コンテンツメーカー

歴史関連の書籍や雑誌、デジタル媒体の編集制作を行う。ジャンルは日本史・世界史全般、アート、日本文化、宗教・神話、観光ガイドなど。おもな編集制作物に『日本の山城100名城』(洋泉社)、『一度は行きたい日本の美城』(学研)、『戦国合戦パノラマ図鑑』(ポプラ社)、『系図でたどる日本の名家・名門』(宝島社)、『大江戸今昔マップ』(KADOKAWA)、『国分寺を歩く』(イカロス出版)など多数。お城イベントプロジェクト「城フェス」の企画・運営、アプリ「戦国武将占い」の企画・開発なども行う。公式サイトはwww.camiyu.jp

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