いつかは行きたい世界遺産ガイド(第9回)

絶景と人工美が融合した「鉄道」の世界遺産

2014.11.05 Wed連載バックナンバー

 世界の多くの古代都市が海や大河沿いにあり、内陸の都市の多くは砂漠や草原、その周辺にあった。これはかつて人類の移動手段が主に船やラクダやウマであり、森林や山地の移動が困難だったことによる。

 陸上輸送の歴史を大きく変えたのが「鉄道」だ。18世紀にはじまる産業革命で製鉄業が躍進すると、鉄のレールを敷いてウマに引かせる鉄道網が発達。18世紀後半には蒸気機関車が誕生して、陸上輸送が飛躍的に向上した(交通革命)。

 やがて鉄道は欧米とその植民地に普及し、各地の森林や山地を切り拓くと、それまで目にすることができなかった山岳風景が身近なものとなり、ツーリズムの振興を促した。

 今回は人類の発展に大きく寄与し、その絶景で人々を魅了し続ける「鉄道」に関する世界遺産を紹介する。

 

ゼメリング鉄道(オーストリア)

 世界ではじめて商用鉄道が現れたのが1825年のこと。そのわずか29年後には当時秘境だったアルプス山脈に鉄道が開通する。ゼメリング鉄道だ。

 その頃、海を持たないオーストリア帝国の悲願は、海へと続く貿易ルートの確立。皇帝フランツ1世はその計画を弟のヨハン大公に任せ、大公は帝都ウィーンとアドリア海の港湾都市トリエステを結ぶアルプス初の鉄道建設を立案する。

 ところが、鉄のレールと鉄の車輪の摩擦によって前に進む鉄道は、抵抗が少なくエネルギー効率が良い半面、勾配に弱く急な坂を登れないという短所を持つ。アルプス山脈を鉄道で越えようなどという計画は無謀なものでしかなかった。

 この解決に心血を注いだのが鉄道技師カール・リッター・フォン・ゲーガだ。ケーガはなるべく高さを変えずに列車を走らせるためにS字やΩ字、あるいはらせん状にレールを敷き(ループ線)、トンネルや高架橋を駆使。そして6年をかけて最大の難所であるゼメリング峠を攻略し、1854年にゼメリング鉄道を完成させる。

 こうしてゼメリング鉄道はアルプス山脈の絶景を人々に開放しただけでなく、自然と鉄道が調和した新しい景観を生み出した。現在でもゼメリング鉄道はオーストリアとイタリア、クロアチア、スロベニアを結ぶ幹線として利用されている。

 

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長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

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