世界遺産が世界遺産である理由(第6回)

自然遺産を守る意味 ~イエローストーンと神の森

2014.03.11 Tue連載バックナンバー

 世界遺産には、文化遺産と自然遺産というふたつの価値がある。

 このうち自然遺産の保護、つまり「自然を守る」という価値観は、文明が誕生した頃から存在するとても古い考え方である一方で、近代まで長きにわたって忘れ去られてきた概念でもある。

 今回は、近代自然保護活動の原点となったアメリカの世界遺産「イエローストーン国立公園」と、メソポタミア文明の時代から環境保護の重要性を訴え続けてきたレバノンの世界遺産「カディーシャ渓谷と神のスギの森」を紹介する。

 

世界初の国立公園イエローストーン

 『旧約聖書』に「産めよ、増えよ、地に満ち、地を征服せよ」とあるように、かつて自然は征服すべき敵だった。中世でも『グリム童話』に書かれている通り、山や森は魑魅魍魎が暮らす土地であり、開墾すべき対象だった。

 15世紀にはじまる大航海時代以降、西欧列強は金銀や胡椒を求めて世界を征服し、18世紀にはじまる産業革命以降、地球は資源と見なされた。

 1871年、アメリカ政府はアメリカ北西部の山岳地帯「イエローストーン」を資源として売り払うために、調査隊として地質学者フェルディナンド・ヘイデンを派遣する。

 天高く吹き出す熱水、虹色の湖、黄金色に輝く山々、群れをなすアメリカバイソン……ヘイデンはこの世のものとは思えない絶景の数々に絶句した。そしてその感動を再現するために画家やカメラマンを帯同させて報告書に多数の絵や写真を添付した。

 この報告書がアメリカを変えた。1872年に議会は売却案を破棄し、大統領ユリシーズ・グラントはイエローストーンを永久に保護する法案に署名した。自然保護という新しい価値観と、世界初となる国立公園の誕生だ。

 

人知を超えたイエローストーンの大自然

 しかし、イエローストーンの保護は試行錯誤の連続だった。… 続きを読む

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長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

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