世界遺産が世界遺産である理由(第4回)

世界遺産が世界遺産でなくなる日~リストからの抹消

2014.01.29 Wed連載バックナンバー

 世界遺産は世界遺産リストに登録されて終わりというものではない。登録された瞬間から当該国の政府はその世界遺産を守り伝える義務を負うわけで、登録はむしろスタート地点にすぎないのだ。

 では、各国政府が世界遺産の保護を怠った場合、あるいは世界遺産を破壊・開発してしまった場合、いったい何が起こるのだろう?

 今回は、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の警告に従って世界遺産リストからの抹消を逃れた世界遺産「ケルン大聖堂」と、史上2例目の登録抹消となった元世界遺産「ドレスデン・エルベ渓谷」を紹介する。

 

ゴシック建築の傑作・ケルン大聖堂

完成当初は世界でもっとも高い人工建造物となったケルン大聖堂。
現在でも大聖堂としては世界第2位の高さを誇る。
正式名称は「聖パウロとマリア大聖堂」。

 ケルン中央駅を出て上空を見上げると、金属やコンクリートをいっさい用いずに築きあげた高さ157mの双塔が、はるか上空から押し寄せてくる。ケルン大聖堂の存在感は圧倒的だ。

 そしてその異様な外観にまた息を飲む。いまにも舞い上がりそうな意匠、それと矛盾する石造の重量感、木の枝のように飛び出した梁、バラを思わせるトゲトゲしい装飾。内観もまた異世界で、空へと吸い上げられそうな造形、木漏れ日のようなステンドグラス、多くの観光客がいるのに静寂な空間。その一つひとつが神々しさを醸し出している。

 大聖堂(カテドラル)とは、地域を治める司教が座る椅子=カテドラの置かれた教会を示す。そして大聖堂は地域を束ねる場であると同時に、神に祈りを捧げる聖域でもあった。だから神の御身である光にあふれ、より天に近くあることが望まれた。こうして「光」と「天」を追い求めた建築様式がゴシックだ。

 石造建築の場合、重い天井を支えるために巨大な壁が必要になる。しかしゴシック建築では、交差ヴォールト(アーチをクロスさせた構造)や飛び梁といった工夫で、天井の重みを柱に集中させて、壁を取り去ることに成功する。そして柱と梁の骨組み構造で軽量化・高層化が可能になり、柱と柱の空間にステンドグラスをはめ込むことで、光に満ちた空間を演出した。

 

632年目の完成とユネスコの警告

ライン川越しに見るケルン大聖堂の夜景。周囲に数階建てのビルが
建ち並んでいるのだが、ケルン大聖堂の威容は圧倒的だ。

 ケルン大聖堂の建設がはじまったのは1248年のこと。しかしその規模があまりに桁外れだったことから作業は捗らず、16世紀には三十年戦争などの影響もあって建設は完全に放棄される。

 完成は不可能と思われたが、19世紀に失われていた設計図が発見されると、ドイツは国家事業として大聖堂の建設を再開。そして1880年、着工から632年の時を経て大聖堂が完成する。

 1996年に世界遺産リストに登録されたが、2004年にユネスコはこの物件を危機遺産リストに掲載する。理由はケルン市の都市計画だ。… 続きを読む

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長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

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