世界遺産が世界遺産である理由(第21回)

世界遺産を味わう:メキシコの魂 テキーラ

2016.03.17 Thu連載バックナンバー

 料理は各地の文化の象徴であり、その地で生きた人々の英知の結晶だ。特に酒は日本神話の松尾神、ローマ神話のバッカス、インド神話のソーマといった神々で知られるように、多くの文化で神聖視され、神格化されてきた。

 メキシコの世界遺産「リュウゼツラン景観と古代テキーラ産業施設群」で生産される蒸留酒テキーラも神々に捧げられた美酒のひとつ。ひと口味わうごとにその歴史が全身に溶け出し、その世界観が飲む者を包み込む。

 今回はテキーラを題材に、酒に込められた歴史とその楽しみ方を紹介してみたい。

 

酒の歴史とその種類

 そもそも「酒」とは何か? 少し酒の歴史を追ってみよう。

 糖は酵母によってエチルアルコールと二酸化炭素(炭酸)に分解される。これを「発酵」と呼び、エチルアルコールを含む飲料を「酒」という。

 条件さえそろえば果物の果汁は含まれている糖が発酵して酒になる。リンゴ、ナシ、パイナップル、ヤシ、サトウキビ……世界中に果実酒があり、古代から嗜好されてきた。最古の証拠は中国の賈湖(かこ)遺跡のもので、およそ9,000年前の陶器の破片から酒の痕跡が発見されている。

 穀物の場合はデンプンを糖に変えるために「糖化」という過程を経なければならない。ビールは麦芽に含まれる酵素で大麦を、日本酒は麹(こうじ)で米を糖化してから発酵させる。アジアには広く「口噛み酒」があったが、これは穀物を女性に噛ませ、唾液に含まれる酵素を利用して糖化する。

 こうして糖を発酵させてできた酒を「醸造酒」という。世界でもっとも愛されている醸造酒といったらワインと日本酒ということになるだろう。

 そして中世、ヨーロッパの錬金術師たちは醸造酒を加熱して、沸点の低いエチルアルコールを気化させ、それを再び液体に戻す蒸留によって濃度の高いエチルアルコール溶液を作り出した。「蒸留酒」だ。

 すべての酒は醸造酒、蒸留酒、これらに混ぜものを加えた混成酒(リキュール)の3種に分類される。

 

神に捧げられた醸造酒プルケ

 アメリカ大陸でも古くから酒が飲まれていた。もっとも普及していた酒がトウモロコシの醸造酒「チチャ」だ。少女にトウモロコシを… 続きを読む

全文(続き)を読む

続きを読むにはログインが必要です。

まだ会員でない方は、会員登録(無料)いただくと、続きが読めます。

連載記事

世界遺産を味わう:メキシコの魂 テキーラ
長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

このページの先頭へ
Bizコンパス公式Facebook Bizコンパス公式Twitter