世界遺産が世界遺産である理由(第20回)

神の食べ物・チョコレートを巡る世界遺産の旅

2016.02.10 Wed連載バックナンバー

 2月14日はバレンタインデー、3月14日はホワイトデーだ。チョコレートをもらったり、あげたりする人も少なくないだろう。聖バレンタインはローマ時代を生きた司祭で、兵士の結婚を禁じた皇帝の命に背いて結婚式を行ったため殉教したことから、恋人たちの守護聖人となったと伝えられている。

 西欧でもバレンタインデーに花やカード等を恋人に贈ったりはするのだが、チョコレートに特化しているのは日本だけ。ホワイトデーは完全に日本発の習慣だ。

 さてこのチョコレート、日本には17~18世紀に伝来したが、実は西欧に伝えられたのも16世紀と、それほど長い歴史があるわけではない。16世紀はじめ、黄金を求めて中米に侵入したスペインのコンキスタドール(征服者)たちは、神として崇められているカカオや「神の飲み物」として愛飲されているチョコレートを発見し、祖国に持ち帰って皇帝に献上した。

 チョコレートは瞬く間に西欧中の王族・貴族を魅了し、やがて帝都ウィーンでチョコレートケーキとして花開く。

 今回はこうした壮大な物語を持つチョコレートとそれに関する世界遺産を紹介したい。

 

メソ・アメリカにおけるカカオの歴史

 カカオの実はとても栄養価が高いことで知られている。脂質・ビタミン・ミネラル・植物繊維などを豊富に含んでいるため、メソ・アメリカ(中米の古代文明地帯)では3,000~4,000年も前からカカオを栽培し、栄養剤や強壮剤・胃腸薬・解熱剤・鎮痛剤・催淫剤等として利用してきた。

 当時はカカオにトウガラシなどのスパイスやトウモロコシなどの穀物を混ぜてすりつぶし、その粉を水に溶かして飲んでいた。アメリカ大陸には砂糖(サトウキビ)がなかったため、このチョコレート飲料=カカオトルはひたすら苦いものだったらしい。

 メソ・アメリカ最古の文明といわれるオルメカ文明(紀元前1500年~紀元前後)で、カカオトルはすでに神の飲み物として扱われていた。そしてマヤ文明(紀元前4~後16世紀)でカカオはエク・チュアフという神の化身とされ、収穫されると神に捧げられ、王や貴族のみが口にすることを許されたという。

 そしてアステカ文明(13世紀~1521年)でカカオは羽を持つヘビの神ケツァルコアトルが天から持ち帰ったものとされ、雨と農業の神トラロックが育てて地上に広がったと伝えられた。ケツァルコアトルはやがて天に帰ってしまったが、アステカ暦でセ・アカトルと呼ばれる特別な年に地上に戻り、人々を救うと伝えられた。

 セ・アカトルにあたる1519年、スペイン人コルテスがメキシコに上陸。ケツァルコアトルは白い肌の人間になって現れるという伝説も手伝って、アステカ王は白人であるコルテスを神の遣いとしてもてなし、カカオトルを振る舞った。西欧人がはじめてチョコレートを口にした瞬間だ。

 1521年にコルテスはアステカの首都テノチティトランを攻撃。これを手始めにスペインは中南米の多くを征服する。そして1527年に国王カルロス1世(神聖ローマ皇帝としてはカール5世)にカカオを献上し、ヨーロッパにおけるチョコレート史の幕が開ける。

 

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長谷川 大

長谷川 大

世界遺産&旅行ライター

横浜国立大学卒業後、出版社勤務。三国志・戦国時代・幕末・ギリシア神話など、歴史ものを中心に編集・ライティングを行う。世界一周の旅を経てフリーの編集者・ライターとして活動中。これまでの訪問国数は68か国、世界遺産は182か所。All About「世界遺産」公式ガイド。http://allabout.co.jp/gm/gt/563/

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