「面白い」には理由がある!大ヒット漫画を分析(第9回)

ナニワ金融道~なぜ青年は金融屋で働き続けるのか

2015.01.23 Fri連載バックナンバー

 厚生労働省の調査によると、大学卒業後の離職率は32.4%。大学を卒業し、この就職難の時代にせっかく職を得たとしても、なんと3人に1人が辞めてしまうのである。それでは、3人のうち辞めてしまった1人と、残った2人は何が違ったのだろうか?

 人気漫画「ナニワ金融道」の主人公は、キレ者のエリートでも海千山千のベテランでもなく、小さな印刷会社に勤めていただけの青年だった。いわば「金融の素人」であり、平凡な青年だ。ルックス的にも性格的にも、曲者揃いの登場人物の中で浮いてしまうような存在の人物が、いかにして帝国金融に定着し、この道で成長していったのか。

 消費者金融会社「帝国金融」を舞台に金を貸す側・借りる側の悲喜交々を描き、これまで漫画に関心を持たなかった層からも支持を得ている「ナニワ金融道」。数々の賞を受賞し、あす1月24日にはテレビドラマ版の新作も放送されるこの人気作品には、借金に振り回される人間の悲哀とともに、「仕事に定着し、成長していく」という労働の本質が描かれている。

出典:『ナニワ金融道』1~19巻(青木雄二/講談社) 、『新ナニワ金融道』1~20巻(青木雄二プロダクション/グリーンアロー出版社[1~6巻]、扶桑社[7~20巻])

 

金融屋になるんはあんたの宿命やで!

 まずは主人公である灰原達之(はいばらたつゆき)という青年についてまとめてみよう。ドラマ版ではSMAPの中居正広が演じているが、原作ではどこにでもいるような、極めて地味な顔をしている。作品の舞台が大阪なので、登場人物はみな関西弁を話すのだが、灰原だけは一貫して標準語。明らかに作品から浮いているキャラクターだ。

 灰原は高校卒業後、理由は不明だがさまざまな職を転々としている。冒頭のエピソードや仕事ぶりから、本人の問題というよりは会社に恵まれなかったようだ。印刷屋の社長が夜逃げしたことにより新たな就職先を求め、金融業の面接に赴く際も、真面目に勉強してから臨んでいる。だが、試験は完璧だったものの、前の会社の事情でサラ金から金をツマんでいた(借りていた)履歴を調べられ、ことごとく採用を見送られてしまう。金を「貸す」方は「借りた」方を信用していないのだ。ただ実際のところ、彼は会社の資金繰りのために名義を貸していたにすぎないのだが……。

 灰原はもともと、高卒という学歴が因となって世間的に不利な境遇の会社を選ばざるを得なくなっていた。その状況が彼自身に「借金履歴」を作ってしまうという、不利な状況が次の不利を呼ぶ不幸の連鎖に陥っている。これは作者が作品全体から絶えず滲ませているテーマでもある。

 「高卒」ということに関しては、コミックスの最終エピソードになるが、帝国金融の金畑社長が「ワシらの世界では学歴なんか屁のツッパリにもなりません。実績がすべてですんや。灰原はエリートなんですわ」と語っている。これは、本来そうあるべきだという作者の青木雄二の主張であろう。

 灰原は数多の金融会社に就職を断られた末、最終的には怪しげな金融屋「帝国金融」に飛び込む。帝国金融は先の社長の言に象徴されるように、筆記試験云々ではなく、いきなり灰原を追い込み(借金回収のために債権者を直接訪ね、強引に取り立てること)の現場に連れて行き、「それでも働く気があるのか?」という強硬なスタンスをとる。

 しかし灰原は「これほど本音で商売する業種は他にない」と、帝国金融で働く決意をする。

 そして勤務初日の電話営業でさっそく客を引っかけた灰原を、部長の高山は「金融屋になるのはあんたの宿命やで!」と持ち上げる。就職を断られ続けて弱り切った灰原の心には火が灯ったことだろう。

 

取り立て屋にとって決定的な弱点「情に流される」

 とはいえ、借金の取り立ては酷な仕事だ。灰原がもともと金融業に対して抱いていた考え方は、「借りたものは返すのが当然、自分たちは正当に契約した金利を得る商売をする」という、平和的なものだった。だから借りた相手がとぶ(不渡りを出す)ことは望んでいない。本人が返済不能になっても回収できる絵を描いて(金策の方法を提示して)から融資するので損はしないが、それには相手を追い込まなくてはならない。… 続きを読む

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酒式/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

酒式/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

脱サラして漫画家を志し、週刊少年サンデーで漫画デビュー。その後さまざまに名前を変えて作品を出しながら、漫画の世界にしがみつく。日本酒党。

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