「面白い」には理由がある!大ヒット漫画を分析(第4回)

国家と個人の志~真摯な男たちの激突『沈黙の艦隊』

2014.02.12 Wed連載バックナンバー

 作品の連載開始は1988年。アメリカ合衆国が押しも押されもせぬ大国として世界に君臨しており、日本の経済力が群を抜いて強かった頃だ。そんな時代を背景に、秘密裏に日本初の原子力潜水艦が建造される。米第7艦隊に配属される予定だったその原潜「シーバット」は試運転のさなか姿を消し、自らを「やまと」と名乗り「独立」を宣言する。

 

「沈黙の艦隊」とその時代

 「日本はアメリカの属国なのか」という問題提起が実際になされていた世相であった。経済大国になった日本、頭を抑えにかかるアメリカ。日本が強気になり「次のステップ」を胸に抱き始め、終戦後のモヤモヤとはまた違うアメリカへの複雑な感情が、少しずつ具体的な言葉となって世間に現れはじめていた。

 そこに「日本製の世界最強原潜」「真の独立」などと謳った漫画作品が登場する。これまでなら「子供の教育に悪い」と非難されることはあっても「所詮は~」と歯牙にもかけられないメディアであった漫画が、アメリカとの関係悪化を恐れる識者から「今こんなものを描くべきではない」と話題にされるほど、様々な層から関心を集めた。

 その理由は、緻密に組み立てられた設定と、リアルな筆致にある。実際の地図にある海域で、実在する艦隊が戦闘を繰り広げ、実在する官職の肩書きを持った登場人物が外交工作を行う。「大きなウソをつくには小さな真実を混ぜろ」というように、リアルな設定と描写があってこそ大胆な文言が真実味を帯び、ドラマが活きるのである。

 物語内のバランス感覚も抜群で、海江田に対する深町、大滝に対する海渡などを見れば、「超国家常設国連軍」「軍備永久放棄」など掲げられる理想に対して当然向けられる現実的な反論も並べて発せられていることがわかる。突飛な理想ばかり並べても説得力を持たない。現実を踏まえた反論とともに俎上に載せられるからこそ、浮つかず、読者の懐に入ってくるのだ。

 漫画としての面白さを確立する波瀾万丈なストーリー展開、大胆だが議論に値するアイデア、政治・軍事に対する造詣、重厚感のあるリアルな描写、それらをすべて兼ね備えた希有なエンターテインメント、それが「沈黙の艦隊」だった。… 続きを読む

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酒式/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

酒式/studio woofoo(www.studio-woofoo.net)

脱サラして漫画家を志し、週刊少年サンデーで漫画デビュー。その後さまざまに名前を変えて作品を出しながら、漫画の世界にしがみつく。日本酒党。

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