一筋縄ではいかない中国脱出

中堅企業の「脱中国、ASEAN進出」を考える

2012.11.23 Fri連載バックナンバー

 中国商務省の統計によれば、2012年10月の対中直接投資は4億6,000万ドル(約373億円)と、前年同月比32.3%減少したことがわかった。早くから、中国に内在するリスクを踏まえ、ほかの国へ企業投資を分散する「チャイナプラスワン」が叫ばれていたが、尖閣諸島国有化をきっかけとする反日デモの広がりで、中国へのリスク懸念が一気に吹き出した。これに対し、投資額の倍増を見せているのが、ASEAN(Association of South‐East Asian Nations/東南アジア諸国連合)だ。中国の次の投資先として注目されている。とはいえ、一度進出した中国からの撤退も簡単ではない。まずは中国撤退のテクニックを確認し、次の市場として期待される東南アジアの事情を見て行こう。

 

「チャイナプラスワン」ではなく「中国撤退」へ

 日本企業が中国への進出を本格的に開始したのは1990年前後のこと。その後、2001年の中国WTO加盟以降は各国からの進出も見られるようになった。世界の工場として生産能力に期待があったが、実は当時から一部リスクを指摘する声もあった。そして2012年、尖閣諸島国有化に端を発する反日デモの広がりでこのリスクが一気に表面化され、進出企業が新たな対応を迫られている。
 反日デモだけをとっても、今回が初めてではない。2005年3月には大韓民国の竹島問題(独島問題)による反日運動をきっかけに、中国各地にもデモが広がった。2010年9月には尖閣諸島付近で操業中していた中国漁船を日本の海上保安庁が取り締まり事情聴取を行なったため、その抗議デモが中国本土で繰り返された。そして、今回の大がかりな反日デモである。
 ほかにもリスクはある。第一に「品質」だ。2008年の生活協同組合CO・OPブランドで販売された中国製食品の中毒問題が記憶に新しい。中国製冷凍食品のほとんどが市場から撤廃され、中国製食品の品質への疑いはいまだ解消されていない。
 第二に「賃金水準の上昇・労働力の低下」だ。中国が世界の工場になり得たのは、低い賃金で大量の労働力を確保できたからだが、その賃金が限界近くまで上昇し、人件費抑制という魅力がなくなりかけている。労働者によるストライキや労働組合問題も多い。中国政府が人口増加抑制のため、一人っ子政策を取ったため、農村地帯からの労働者供給力も低下している。
 第三に「知的財産保護のリスク」がある。技術移転はリスクが大きい。ブランドや知的財産権保護の意識が低く、瞬く間に模倣品を作成されるからだ。ハイエンドな技術の移植はするべきではないし、する場合は模倣されることを覚悟しなければならない。
 さらに、共産党の一党独裁体制の政治大国であるため、市場の中立性にも不安がある。レアアースの輸出制限など先が読めない。米国政府では、情報の漏えいや操作を恐れて、高度な通信システムに中国製品の使用をストップしたほどである。
 これらを背景に多くの企業がリスク対策として採用してきたのが「チャイナプラスワン」だ。中国一ヶ国ではなく、他の国にも工場を持ち、リスクを分散するやり方である。だが、2012年の反日デモの拡大以降、「チャイナプラスワン」レベルではなく、「中国撤退」が本格的に検討されるようになってきた。大企業であれば複数の工場を分散する「チャイナプラスワン」も有効かもしれないが、中小企業においては、複数の生産拠点を持つことが困難で、「中国撤退」の方が現実的であろう。

 

一筋縄ではいかない中国撤退のテクニック

 実は、中国においてはこの撤退も簡単ではない。今後中国に進出を考えている企業にも参考となると思われるので、その撤退テクニックを紹介したい。撤退方法には大きく3つあって、第一に出資持分の「譲渡」、第二に会社を解散させる「清算」、第三に「破産」である。「破産」は文字どおり破産手続きをして撤退することであり、あまり一般的ではない。ここでは主に用いられる「譲渡」と「清算」について説明したい。
 そもそも、中国に進出する形態には「独資」と「合弁」がある(出資以外の条件で法人を設立する「合作」は、日系企業ではほとんど選択されないため、本稿では割愛)。「独資」は100%外国資本の会社で、中国の出資者を持たない。これに対し「合弁」は中国企業と共同経営する。
 「独資」の場合は、中国における企業運営のノウハウがないと困難だが、中国資本が入っていないため、経営の自由度が高く、撤退も比較的簡単にできる。
 一方、「合弁」は中国企業と共同経営になるため、投資も少なくて済むし、既存の労働力や販売ルートを利用することができ、進出のハードルがずいぶん低くなる。だが、撤退の段になるとこれがひどくやっかいになる。

 まずは「清算」手続きから。「清算」では董事会(とうじかい/会社の最高決議機関)が会社の解散を決定してから清算委員会を設置し、… 続きを読む

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鈴木 光勇

鈴木 光勇

ITライター

1980年代から第一線でコンピュータ・通信技術を観察し、ライターとして活躍。記事執筆および著書多数。

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