温故知新 時代を作ったビジネス書から学ぶ(第11回)

日本がソフトウエアで勝てない理由

2015.05.18 Mon連載バックナンバー

 明治以来、日本は西洋の科学技術を学び、世界一売れる製品や、多数のノーベル賞受賞者を生み出してきました。しかし、ソフトウエア分野では、世界的な日本人開発者が活躍しているにもかかわらず、日本企業は、世界市場で戦える製品や理論を、未だ生み出していません。

 ソフトウエアはプログラムで出来ています。プログラムの重要部分は、処理・条件分岐・繰り返しの3つです。特に、<and> <or> <not>を組み合わせて条件分岐を正しく美しく整理することが、ソフトウエアの品質を決定づけます。

 ソフトウエアで重要なもう一つは、体系性です。体系性とは、使いやすい部品がきっちりとそろっているかどうかの賢さです。ブロックを組み立てるおもちゃを例にしてみましょう。ブロックのパッケージは、いろいろな形の部品(ブロック)がそれぞれ最適とされる数、入っています。この部品となるブロックの形と数の組み合わせに、体系性(賢さ・豊かさ)があるからこそ、1つのパッケージで、恐竜・飛行機・電車・自動車・人形・家などたくさんの種類の完成品を生み出せるのです。

 ソフトウエアはC、Java、PHP、Swift、そしてRubyなどのプログラム言語を使って作られています。ブロックおもちゃと同様、プログラム言語の部品は、体系的に、漏れなく、重なり無くそろっています。これらプログラム言語で作られるソフトウエアも、賢い体系性を持つものが、想定外のエラーを発生させず、わかりやすい操作を提供し、より多くのユーザを獲得してきました。また、通信プロトコール(通信規格)の構築や、オープンソースの共同開発でも、体系的な理解や構造が求められます。解決したい課題に対して十分な体系性をもつことが、ソフトウエア成功の条件なのです。

 <and>と<or>の厳密さによる論理や、体系的な構造というビジネス・ツールに日本が出会ったのは、明治時代です。論理と体系性は西洋由来の考え方で、それまでの東洋や日本にはありませんでした。論理や体系性と出会った明治時代の知識人の驚きを振り返ることで、世界市場で戦えるソフトウエアを日本企業が生み出していくための方法を考えます。

 

日本になく西洋にあったビジネス要素とは

 第9回で紹介した福沢諭吉は、西洋にあって日本にないのは、「人民独立の精神と科学観」だと指摘しました(丸山真男=加藤周一『翻訳と日本の近代』(岩波新書580)[以下、丸山翻訳]p.163)。科学観とは、数式で物理現象を表現するニュートン力学を中心とするサイエンスです。

 『雑種文化』、『羊の歌』などの著書のある加藤周一は、明治時代の翻訳を研究したところ「いわゆる論理用語、英語での<and> <or> <if, then> <not>の四語についていえば、原文と訳文との間で用法の違いが著しいのは<or>である」と述べ、これらの論理用語が正確に和訳されなかった事例を多数報告しています(加藤周一「明治初期の翻訳」日本近代思想体系15『翻訳の思想』(岩波書店)所蔵p.375)。

 明治初期に慶應義塾で学び、政治小説『経国美談』も書いた矢野文雄(矢野龍渓)は、東洋になく西洋にあるものとして、「類別の精密さ」を指摘しました。… 続きを読む

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鈴木 健治

鈴木 健治

特許事務所ケイバリュエーション 所長 弁理士

経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員などを歴任。著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。取引先の経営者・担当者にビジネス書の書評をお届けしている。公式サイト:http://kval.jp/

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