温故知新 時代を作ったビジネス書から学ぶ(第9回)

知識は使わなければ「赤字」、福沢諭吉のビジネス観

2015.04.10 Fri連載バックナンバー

 日本で最初の純粋なビジネス書は、福沢諭吉が翻訳した『帳合之法』という西洋簿記の教科書です。

 洋学者で慶應義塾の創立者である福沢は、商売の学問的価値を高め、複式簿記という西洋の帳簿付けを日本に導入するために、西洋簿記の教科書を翻訳しました。福沢とともにこの翻訳をした荘田平五郎は、その後三菱に入り、会社の経理を合理化、三菱財閥の発展を決定づけました。福沢は、国家も人生も商売であり、人生の棚卸しをして知性を点検すべきだと提案しています。

 今回は、商売を「学問」にしようとした、福沢のビジョンを探ります。

 

複式簿記の教科書を日本で初めて翻訳した福沢諭吉の願い

 幕末から明治にかけたベストセラー作家は福沢諭吉です。福沢は、『西洋事情』、『学問のすすめ』などをユーモアも交えた文章で記載、実学の浸透を目指しました。福沢の理想とする実学とは、普通の生活の役に立つ知識であり、手紙の言葉や帳簿の付け方、地理、歴史、経済などです(福沢諭吉著、齋藤孝訳『現代語訳 学問のすすめ』pp.11-12)。

 日本の国語を英語にしてはどうかという提案もあった明治時代に、福沢は西洋の思想や実学を苦心して日本語で紹介しました。福沢は商業や経済を日本の学問にしていくために、アメリカの商業学校で使用されているテキストを翻訳したのです。それが、ブックキーピングの教科書、『帳合之法』全4冊です。ブックキーピングは、現在では簿記と訳されています。

 この『帳合之法』は商売の教科書となり、当時の慶應義塾その他で簿記の訓練がなされ、卒業生は企業に入社、その経理を実践・改革していきました。

 江戸時代にも日本独自に複式簿記は発達しましたが、西洋伝来の複式簿記のように、取引の二面性をとらえて貸借対照表損益計算書を作成するような仕組みは、日本にはありませんでした。

 取引の二面性とは、1つの取引について複式(二重)に評価することです。たとえば商売を始めるために現金で商品を購入したとすると、現金(資産)の減少という面と、商品(資産)の増加という面の二面性をとらえます。原因と結果です。1つの取引について、現金の減少という原因を記録すると共に、商品の増加という結果を記録します。

 この二重(複式)の記録をしていくと、合計残高の試算などをした際に、計算ミスや記帳ミスを発見することができるのです。さらに、取引の一面のみを記録する単式と比較して、複式簿記は資産や負債の状態を把握しやすいというメリットがあります。

 1873年に単式簿記を解説する帳合之法初編2冊、1874年に複式簿記を解説する『帳合之法二編』2冊が出版されました。縦書きで、『帳合之法二編』では上下に仕分もされており、「貸」「借」の用語が使用されています。帳合之法の原本は、国立国会図書館の近代デジタルライブラリー(初編二編)や、慶應義塾図書館デジタルギャラリー(初編)で見ることができます。

 

三菱財閥のビッグ・ビジネスを会計技術で支えた荘田平五郎

 『帳合之法二編』の翻訳には協力者がいました。… 続きを読む

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鈴木 健治

鈴木 健治

特許事務所ケイバリュエーション 所長 弁理士

経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員などを歴任。著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。取引先の経営者・担当者にビジネス書の書評をお届けしている。公式サイト:http://kval.jp/

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